
ロシアのウクライナ侵攻を巡り、トランプ米大統領とプーチン露大統領が電話協議し、戦争終結へ向けた交渉の開始などで合意した。思惑や展望について、防衛大の岡田美保教授(ロシア外交・安全保障)に聞いた。
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今回、停戦に向けた交渉開始で合意に至ったロシア側の背景としては、戦争継続のための当面の資源が底を突きつつあるという点が考えられる。
戦争開始から3年となる中、とりわけ人的損失は大きい。ウクライナ東部の前線では露軍の優勢が続くものの、毎日1000人以上の死傷者を出している。犯罪者や外国人雇い兵を戦場に送り込むことで、どうにか戦線を維持している。
露軍が保有・備蓄する戦車についても、2024年末の時点で、開戦時から半減したと指摘されている。この速度で戦車を失えば、25年中には底を突くとの分析も出始めていた。多大な損失を受けて、これ以上の長期化は回避すべきだとの現実的判断なのではないか。
もう一つ、ロシアにとって重要なのは、戦争での「勝利」を国内で印象付けられるかどうかだ。そのため、領土面で多くを要求し、ウクライナの主権や安全保障にできるだけ制限を課すことを望んでいる。
議論になっていたウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟について、米側が明確に否定したことで、プーチン氏が今回の交渉開始を受け入れたのではないかと考える。
米国は今回、「戦争終結に向けた交渉」という曖昧な言葉を用いている。トランプ氏が自身の手柄にしたいといった、個人的な思惑を優先しているようにも見える。
さらに米国は、ロシアの再侵略を抑止するためにウクライナへの武器供与を続けることは明確にしているが、その条件としてレアアース(希土類)の供与を求めている。米国は、国際的な平和体制を構築するという公的な目標よりも、米国の国益やトランプ氏の個人的な利益で動いているという印象が拭いきれない。
今後、交渉が進む過程で、ウクライナの安全保障を確固たるものにする体制が構築されるように、欧州諸国などが働きかける必要があるだろう。今のままでは米露間で合意した内容をウクライナに押しつける流れになりかねない。【聞き手・松本紫帆】