
文壇における「書店復興」の旗手といえば、直木賞作家の今村翔吾さん(40)だ。全国の店を行脚するだけでなく、シェア書店「ほんまる神保町」(東京都千代田区)のほか大阪府箕面市や佐賀市でも書店を経営。東奔西走の合間を縫って、その思いを語ってもらった。【聞き手・高橋昌紀】
書店業界「幕末のようにぐちゃぐちゃ」
――本離れ、書店の危機が叫ばれています。
◆今の出版・書店業界は幕末のようにぐちゃぐちゃ。大手出版社を頼っても、当時の幕府と同じで動いてくれない。構造改革が必要です。それには坂本龍馬のように脱藩して、刀を持って、京都に上るぐらいの勢いがいる。何かを待っていてもしゃあないから、動きながら考えています。僕はいわば、開国論者。僕なりの「海援隊」を作ろうとしています。
――業界は鎖国状態にあるのでしょうか。
◆本の価格決定権が出版社にあり、事実上の主導権を握っていることが問題です。特に大手4社はメディアミックスにより巨大な利益を上げている。「出版不況」と言われますが、苦しんでいるのは大手の下の中小・零細、個人事業主です。今の日本経済の縮図で、格差が生じています。
――解決策はありますか。
◆大手出版社の取り分を減らし、取次会社、書店に利益をもっと分配すべきです。書店だけでなく、取次会社も物流費の上昇に苦心している。従来の「利権構造」を変え、利益を再配分するんです。それができれば本を値上げする必要もないかもしれません。書店の倒産ラッシュも止まるでしょう。大手には「大手としての責任」があるはずです。
――大手は簡単に応じるでしょうか。
◆「主権」は読者、本を愛する人たちにある。にもかかわらず、出版業界に置き去りにされてきたように思います。皆さんが声を上げることで業界は変わる。「書店を残せるような仕組みを作ってくれ」と。その熱い思いを僕に貸してください。皆さんの声を確実に生かします。何だか、政治家みたいやね。
「書店の限定本出版」などアイデア構想
――書店にできることは何でしょう。
◆出版社と違い、書店同士はライバルではありません。例えば複数の書店が連合し、その書店でしか購入できない限定本を出版する。そのコンテンツを育て、アニメにしたり、ドラマにしたり。作家は必ずしも、従来のように出版社と結びつくことはないと思うんです。僕も喜んで書かせてもらいますよ。大手の書店はぜひ、取り組んでほしい。
――頑張っている独立系書店も多いですね。
◆書店を救え、との声は強いですね。一方で「マチの本屋さん」という曖昧な定義を使うのはやめるべきです。エモーショナルすぎます。地方の寂れた商店街の小さな書店が一様に困っているわけではありません。実は大地主であったり、小中学校への教科書販売という利権を握ったりしている。そうした存在が新規参入を阻んでしまうこともある。やる気のある若い子らにこそ、手厚い支援が必要です。チェーンの書店の方がむしろ、読書文化を守るために地方で頑張っていたりもする。
――ご自身も書店を経営しています。
◆書店を持ったからこそ、多くの課題が見えてきました。実は業界の外の人たちの方が、出版文化の価値を見いだしてくれるかもしれない。本屋の強さ、魅力は本に関わっていない人たちの方が高い評価をしてくれるのかもしない。他の業界の企業にも積極的に協力を求めています。きれいごとだけでは駄目で、物も金も必要。「(龍馬を支援した)松平春嶽さん、お願いしますよ」とね。
坂本龍馬が議会を構想したように、いつかは出版、取次会社、書店、作家、読者らを集めた話し合いの場を開きたいですね。
今村翔吾さんお勧めの自著3冊
▽「五葉のまつり」(新潮社)
▽「イクサガミ(天)」(講談社)
▽「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」(祥伝社)
今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984年、京都府生まれ。関西大文学部卒。ダンスインストラクター、作曲家、滋賀県守山市埋蔵文化財調査員を経て、2017年に「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」でデビューした。22年に「塞王の楯」で直木賞。同年に一般社団法人「ホンミライ」を設立した。ほかに角川春樹小説賞、吉川英治文学新人賞、山田風太郎賞など。