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被災地走り7万km 僧侶の「ラーメンカー」 人の温もり届ける一杯


茨城県の僧侶たちが運営するNPOが、2011年から被災地でキッチンカーを使い、ラーメンを提供する活動を続けている。この活動は東日本大震災から始まり、現在までに約500回、7万キロを走破した。僧侶たちは温かい食事を提供することで、被災者に「忘れていない」というメッセージを伝えたいと考え、子どもにも人気のラーメンを選んだ。彼らのモットーは、食を通じたコミュニティーの場づくりであり、法話ではなくラーメンを介して被災者に寄り添うこと。支援は東日本大震災に限らず、他の被災地にも広がっている。現在、新しいキッチンカーのための資金をクラウドファンディングで集め、活動の継続を目指している。

 お坊さんたちのキッチンカーが、各地の被災地に熱々のラーメンを届けている。茨城県内の僧侶8人で作るNPOが、2011年から地震や豪雨の被災地で炊き出しを行い、今年で約500回。総走行距離は7万キロにも及ぶ。「言葉でなくてラーメンで『被災地を忘れていないよ』と伝えたい」。そんな思いを乗せ、「ラーメンカー」は今日も被災地を走る。

言葉を失った東日本大震災

 始まりは東日本大震災だった。亡くなった人、被災者の多さに「何かやらなきゃいけないと思った」。NPO法人「ボランティアネット」の代表で正蔵寺(茨城県古河市)の住職、梁河(やながわ)文昌(ふみあき)さん(57)はそう振り返る。

 発生から約2週間後、宮城県の南三陸町と石巻市の避難所に、茨城県内の副住職ら8人ほどで物資を届けに向かった。

 現場は言葉を失うほどのすさまじさだった。建物は跡形もなく、道路は崩壊。車やがれきが散乱し、ヘドロと油と海のにおいが混ざり合っていた。

 僧侶の仕事柄、何かを失った人と対話することはよくある。それでも、家族や住む家や仕事を失った避難所の人たちに声をかけることができなかった。

 自分たちに何かできることはあるのだろうか――。そんな思いを抱いている時、耳にしたのは「温かいものが食べたい」という避難者の声だった。当時は寒さが厳しかった上、まだ菓子パンなどしか届いていない避難所もあった。

 地元に戻ってからは猛スピードで準備を始めた。食堂を経営している知人の協力を仰ぎ、炊き出しの器具をそろえて事前に調理の練習もした。

 そして11年4月に、石巻市の中学校で初めての炊き出しを行った。野菜もたっぷり取れるように、メニューはけんちんうどん。具だくさんのうどんをおいしそうに食べてくれる姿に力をもらいながら、より多く、より早くと作っているうちに、列に並ぶ全員分を配り終えることができた。

 炊き出しの後、袈裟(けさ)に着替えて仮の埋葬地の前で手を合わせた。亡くなった人々への供養の気持ちと同時に、これから大きなことに関わるんだという覚悟を持った。

作るのは「会話の場」

 それからは月に1、2回、乗用車やレンタカーで宮城県や福島県、岩手県を訪れてきた。次第に仮設住宅が建ち始め、幼い子も多い地域を回ったため、メニューを子どもの好きなラーメンに切り替えた。しょうゆベースで万人受けする昔ながらのラーメンは、高齢者にも好評だった。

 13年にNPO法人を設立。必要な人員と場所が少なく済むよう、14年には中古のキッチンカーを購入した。仲間や被災者から「そこまでやらなくていいだろう」と言われたことも。しかし、炊き出しを続けるためには必要だと押し切った。

 活動は東日本大震災の被災地にとどまらず、茨城県の鬼怒川水害(15年)、熊本地震(16年)や長野県の千曲川氾濫(19年)など、幅広い被災地をキッチンカーで訪問。ボランティアでラーメンを作り続けてきた。

 炊き出しでの支援にこだわるのは、食を囲んだコミュニティー作りに貢献したいという思いがあるから。作っているのは食事だけでなく、被災者が集まって会話ができる場そのものだ。

 僧侶だが、法話などをするわけではない。「被災者の中には人生を投げ出したくなっている人もいる。『ちゃんと見ていますよ』『決して見捨てませんよ』と、言葉でなくラーメンという形に託して伝えたい」

「次代につなげるキッチンカーを」

 キッチンカーは11年目を迎え、想定外の距離を走り続けた車体にはダメージが蓄積し、さびだらけだ。坂道だとスピードが出ず、限界が来ていた。

 そこで、長距離移動にも耐えられる新しいキッチンカーの購入と改修の費用計1000万円をクラウドファンディングで募ると、600万円以上が集まった。年明けからは再度、追加の費用を募る予定だ。

 今年は地震と豪雨被害で二重に苦しむ能登半島にキッチンカーを駐在させ、月に1回、炊き出しをしている。新しいキッチンカーが来たら、焼き物やどんぶり物も提供したいと考えている。「いつどこで震災が起こるか分からない状況。私が倒れるまで続けたいし、次の世代にも引き継げるようにしていきたい」【原奈摘】

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