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「徹底的に嫌がらせしてやんねん」特殊詐欺に憤る警察署長、独自解析


大阪府吹田市で、特殊詐欺が多発し特に「還付金詐欺」が横行している。川畑慶和署長は、細心の注意を払い捜査に取り組み、詐欺グループの手口を特定して「松グループ」と命名。この手口は被害者をATMに誘導し、詐欺金額を振り込ませるよう巧妙に計画されている。既に2024年までに約6400万円が詐取されており、被害者の中には命を絶つケースもある。川畑署長は市民への啓発を進め、詐欺に対する警戒心を高める一方で、防犯機能付き電話を導入するなど、被害防止に努めている。新たな手口が出るたびに分析を進め、「詐欺がはたらけない街」を目指したいと意気込んでいる。

 うその話にだまされた結果、自らを責め、家庭は壊れ、中には命を絶つ人がいる。「被害者をなぶり殺しにするのが『特殊詐欺』という犯罪なんや」。そう憤る警察署長は、管内で猛威を振るう特殊詐欺の実態解明に自ら乗り出した。捜査資料などを分析して見えてきたのは、あるグループの存在だった。

 38万人が暮らす大阪府吹田市。特殊詐欺の被害件数が2022年から2年連続で府内最悪となっている。この街を管轄とする府警吹田署長に23年春、川畑慶和さん(60)は着任した。

 間もなく、医療費を払い戻すとかたる「還付金詐欺」がやたらと多いことに気付いた。部下と対策を話すうち、容疑者が高齢者宅にかけた電話の録音があると知った。約30分にわたる会話を自分で文字に起こし、眺めて思った。「マニュアルがあるんやろな」。市内で発生した還付金詐欺の捜査資料を取り寄せ、読み込んだ。24年1月以降に管内であった還付金詐欺事件を調べると、55件中52件は手口に多くの共通点があることが見えてきた。

 「累積医療費の還付金があります。2万3368円が返金できます」。詐欺グループは丁寧な口調でこう語り、市民をATM(現金自動受払機)へ誘導した。

 「(還付金の)受け取り番号証明書を得る必要があります」として、ATMで10数桁の数字を入力させていた。この10数桁の数字が、詐欺グループが振り込ませようとする現金の金額だ。携帯電話でグループの指示を受けながら金額を入力する際に混乱しないよう、数字が分かりやすい配列になっているといった傾向もあった。このグループはマツモト、マツオカなど「マツ」がつく氏名で、吹田市職員を名乗っていた。

 署はこのグループを「松グループ」と命名。被害者の多くが、メガバンクなど大手金融機関の口座を持っているかを確認されているのも特徴だった。これらの口座から送金する場合、1日に振り込むことができる金額の上限は50万~150万円と高額なため、詐欺グループは被害者の資力を確かめていたとみられる。24年に入り、10月初旬時点ですでに約6400万円が市民から詐取されていた。

 川畑さんはこれらの手口や特徴を1枚の紙にまとめ、全ての署員と共有。署員らは市民に手口を紹介して警戒を促すなどして被害防止に当たっている。

 川畑さんは08年に府警本部の捜査2課で詐欺の捜査に関わって以降、特殊詐欺対策室の室長などを務めてきた。

 ある事件で大金をだまし取られた高齢の女性は親族との関係が疎遠になり、持病が悪化して亡くなった。「捜査のために女性に話を聞いたのは1回目が家、2回目が病院。3回目は、亡くなって会えなかった……」。これだけではない。夫が現金を詐取され、老後の生活を悲観した妻が自分で命を絶ったこともあった。「被害者をなぶり殺しにする犯罪」。川畑さんが特殊詐欺をこう例える由縁だ。

 吹田署はこれまでも市役所と協力し、不審電話を録音できる防犯機能付き電話を高齢者宅へ設置する取り組みなどを進めてきた。川畑さんは言う。「(グループの)特徴を広く知らせて警戒を呼び掛けることで、相手は手口を変えるかもしれない。でも、市民への啓発になる。新たな手口が出てくるたびに分析し、『詐欺がはたらけん街』にしたい。詐欺グループに、徹底的に嫌がらせしてやんねん」【岩本一希】

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