物質・材料研究機構(茨城県つくば市)は、水素の貯蔵・運搬などに適した材料を探す新たな施設を報道陣に公開した。機構によると、液体窒素に近い極低温環境で温度と圧力を変えながら材料の評価ができる世界初の施設という。将来の水素社会を支える安価で安全な新材料の発見を目指す。
水素は燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない次世代燃料として期待される。一方で、貯蔵・運搬したり利用したりしようとすると、原子が小さいため金属に入り込んでもろくしてしまう。また、運搬に便利な液体水素は氷点下253度になり容器が割れやすくなるなど、扱いにくい欠点がある。
国内では水素を利用する材料には法律による基準が定められ、現在は特殊なステンレスが主に利用されている。ただし、水素社会の普及拡大には安全性を確保しながらコストを削減することが課題となっている。
新たな施設は政府のグリーンイノベーション基金に採択され、約30億円をかけて整備された。7月に試験運転が始まり、10月末に本格的な稼働準備が整い完成式があった。
施設には機構と国内の民間企業2社が新たに開発した試験装置4台などが設置された。容器内を液体水素で満たして分析したい材料を入れ、数時間~1カ月間かけて耐久性や壊れやすさを測る。金属片に直径約1ミリの穴を開け、中に少量の水素ガスを入れて測定できる装置もある。
氷点下253度からセ氏80度まで細かく温度を制御できるほか、一般的な水素製造プラントの圧力上限5メガパスカルを大きく上回る最大10メガパスカルまで圧力を変えて実験することもできる。
2025年度まで数種類の金属を使って予備実験を進め、材料のデータベースを作り、26年度以降に民間企業と共有していくという。同機構の小野嘉則ユニットリーダーは「貯蔵・運搬に使える材料を増やし、水素社会実現につながるコスト低減に貢献したい」と話している。【信田真由美】