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「どっちも自分」ホラー漫画の神様、楳図かずおさんが見せた「顔」


楳図かずおの作品「こわい本」シリーズは、特に「顔」や「表情」に注目したホラー作品を提供しており、単なる怖さではなく、表情を通じて直接的な恐怖を伝えることに成功している。この記事では、特に作品「おそれ」におけるキャラクターの不気味さやリアリティの創出について触れられています。また、楳図氏本人についても言及され、彼のホラーに対するアプローチは意外なものであり、「読む側が自然に引き込まれるような作品」が理想であると述べています。さらに彼は、テレビでも親しみやすいキャラクターとしての一面もあり、そのギャップが作品の魅力の一つとなっていることが語られています。

 楳図かずおさんの作品の数々を収めた、その名も「こわい本」というシリーズがある(角川ホラー文庫など)。私の手元にある一冊の副題は「顔」。その中の短編「おそれ」に登場する女性は、転倒して顔に大けがをし、人前に出られなくなる。その後、なぜか近所の女子学生が次々に行方不明になり……。主人公はけがをした女性の妹だが、彼女が結末で見せた表情にも、思わずゾッとする。

 本の巻末には、楳図さんのこんな話が収められている。「ホラー(漫画)にとってとても大切なのは、顔の表現」。主人公に「キャー! 怖い」と叫ばせるだけでは、第三者(読者)に怖さが伝わらない。どんな表情を描けばストレートに恐怖が伝わるかを考え、漫画を描いてきた――。

 楳図さんの作品と言えば「漂流教室」の世界でうごめく謎の生物もおどろおどろしい。一方で、登場人物の表情が緻密に描かれていたからこそ、非現実的で不思議な世界が強固なリアリティーを持ち、読者の心をつかんだ。実際に、楳図さんの絵と聞けば、何かの恐怖におののく女性の表情を連想する人も多いはずだ。

 楳図さん本人の「顔」はどうだったか。民放のバラエティー番組では、時にチアリーダーの格好までして出演者を笑わせた。私は昨年春、取材で楳図さんを訪ねた。写真撮影の際、「まことちゃん」のセリフ「グワシ!」のポーズをかたどったパネルを持ち、気さくに応じてくれた。気難しい雰囲気は感じさせず、話の展開も明瞭。「ホラー」な人では、全くなかった。

 持論があった。「読む側に努力を強いるような難解な漫画は、違うと思う。読者がハッと気付いたら引きずり込まれている。それこそが『面白い』作品です」。ホラー漫画家の「顔」と、テレビなどで見せる「顔」と。「どっちも自分なんですけどね、間違いなく」。そのギャップに、私たち見る側は自然と引きずり込まれていた。【屋代尚則】

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