米国の大富豪で実業家のイーロン・マスク氏が10月に入り、大統領選(11月5日投票)で共和党候補のトランプ前大統領を支援するために自身が立ち上げた政治活動委員会(PAC)「アメリカ」に計4360万ドル(約66億円)を献金していたことが、連邦選挙委員会の資料から判明した。
マスク氏はトランプ氏に「全賭け」すると宣言しているが、これまでにアメリカPACだけで計1億1855万ドル(約180億円)を投じてきた。トランプ氏は資金集めでは民主党のハリス副大統領に劣勢だったが、ここにきて「世界一の富豪」であるマスク氏の資金力が強みになっている。
マスク氏は10月4日に1100万ドルを献金したのを皮切りに9、11、15日に計3260万ドルを投じた。アメリカPACは献金額に制限がない「スーパーPAC」に分類され、表向きは保守系の「政治活動」を展開しているが、実態はトランプ陣営の選挙運動を支援する団体だ。
アメリカPACは激戦7州で「言論の自由と銃所持の権利」の擁護を呼びかける署名活動を展開。署名者を紹介した人に47ドルを支払っているほか、10月19日からは抽選で「毎日1人に100万ドル」を支払うキャンペーンを展開。司法省から「選挙違反の可能性がある」と警告を受けたと報じられた後も活動を続けている。
マスク氏は電気自動車(EV)大手「テスラ」、宇宙企業「スペースX」を率い、短文投稿サイトX(ツイッター)のオーナーでもある。DEI(多様性、公平性、包摂性)の推進などリベラル的な施策の広がりに反発し、「言論の自由」を盾に公的機関によるソーシャルメディアの言論規制にも反対している。
経営者として雇用面の裁量を重視する立場から、労働者の権利を重視する民主党とは折り合いが悪い。民主党のEV普及促進策はテスラに利点がある一方で、他企業に対する優位性を損なうとの見方もある。
トランプ氏は当選した場合、連邦政府効率化委員会を立ち上げ、マスク氏をトップに起用する意向を示している。保守層は連邦政府の権限や役割を小さくする「小さな政府」を志向している。【ワシントン秋山信一】