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不正を通報した息子の死、無駄にしない 「公務災害」認定に高い壁


 公務員の労災に当たる「公務災害」。申請や調査に地方公共団体の協力が不可欠であること、守秘義務のある業務特性などから、申請した遺族が孤独を感じてしまうケースが少なくない。その実態を探った。【安西李姫】

 「公務員試験に合格した時、市民のために頑張ると言っていた。そんな息子がなぜ自殺しなければならなかったのか」。2020年6月、和歌山市職員で市の不正を公益通報していた息子(当時28歳)を突然失った。真相解明のため、公務災害を申請した女性(64)が知ったのは、認定までの高い壁と公益通報者が守られない現実だった。

 息子に異変があったのは18年5月。部署異動で児童館の担当になってすぐ「僕の人生は今日で終わった。犯罪者にはなりたくない」と話し、思い悩んだ様子だった。この頃、息子は虚偽の補助金申請書類の作成を命じられ、不正流用にかかる業務を強制されていた。

 その後、息子はうつ病を発症し休職。同年10月に復職したが、亡くなる前日は公用車の物損事故を起こしていた。ふらふらになっていた息子を迎えに行くと、「僕は人間的にだめなんだ」と苦しそうな様子だった。息子は不眠を訴えており、「眠れないなら一緒に病院へ行こう」と話した直後の自死だった。休職中に公益通報をしていたことは遺品の関係書類を見て知った。

 公務災害を申請できることは息子の友人に教えてもらったが、最初は連絡先や手順も分からず苦労したという。「被災者は公務員だが、のこされた家族は一般市民。分からないことが多かった」と打ち明ける。息子に何があったのかを知りたいという一心で、何度も市役所に足を運び、電話をかけた。

 息子の死から5カ月後の20年11月、公務災害を申請。手書きの認定請求書には「市役所の不正などを告発した状況もあり、数年にわたってひどいストレスにさらされていた」と記した。

 しかし、「パワハラや嫌がらせの証言はなく、強度の精神的負荷があったとは認められない」などとして24年1月に請求は棄却された。女性は5月に不服を申し立て、6月に行った記者会見で「息子の死を無駄にしたくない」と訴えた。

処分の元上司、異動で同じフロアに

 公務災害認定の難しさと同時に痛感したのが、公益通報者が保護されていないということだ。息子の公益通報を受けて処分された元上司が20年4月、同じフロアに異動。その頃から息子は眠れなくなり、約2カ月後に自ら命を絶った。配慮のない人事異動に対し、女性は「公益通報者が守られなかった」との思いを強くしている。

 最近になって新たに知った息子の一面がある。同志社大時代に所属していたゼミの教授に連絡を取ると、若者の労働相談に乗るボランティアに励んでいたこと、労働問題に強い関心を持っていたことを教えてくれた。「息子は命を絶ったけれど、不正の告発という良いことをしたと思う」と振り返った。

 女性は、公益通報者だった息子を守ってほしかったと考える一方、「もっと早く気付ければ」と何度も自分を責めた。遺族ケアのカウンセリングに通いながら、公務災害認定の助けとなるような手がかりを求め続けている。

 そうした女性の思いは行政を動かし、市は外部の有識者によって構成する「公正職務審査会」に諮問。当時の対応が適切だったか、再検証が始まった。道のりは遠いが、探していた光がわずかに見えたと感じている。「それでもまだ、苦難が続くと思っています」

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