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15m跳ね飛ばされた自転車の女性 救ったのは「オシャレより命」


 時速50キロで横断歩道に通りかかった乗用車に跳ね飛ばされた。その距離約15メートル。左足を開放骨折する3カ月の重傷を負ったが、一命を取り留めた。それは母親に着用を勧められたヘルメットのおかげだった。

夜の横断歩道で

 いつも通りの帰り道。勤務先の医療機関から自宅まで片道1時間の道を電動自転車に乗っていた。

 2023年7月のある日の午後10時半過ぎ、東京都葛飾区の女性(38)は、足立区内の幹線道路から1本入った道で、信号機のない横断歩道を渡ろうとしていた。幅が狭い一方通行の道路で、辺りに街灯は少なかった。

 そのとき、乗用車が向かってくるのが見えた。「ライトをつけているし、自転車優先なので止まってくれるだろう」

 そのまま横断歩道に進んだ直後だった。衝撃を感じて体が宙を舞い、激しく地面にたたきつけられた。「このまま死ぬんだな」と思い、とっさに母親にスマートフォンで電話をかけた。

 「お母さん、事故った」。母親からは「だからヘルメットをしなさいって言ったじゃん」と明るい声が返ってきた。その時はまだ、娘が大きな事故に遭っているとは想像もしていないようだった。

 「ヘルメットはしていたよ」。そう伝えるのが精いっぱいだった。

母親の勧めで

 女性は23年3月末、転職をきっかけに実家のある大阪府から上京した。大阪にいたころから、移動には自転車をよく使っていたが、ヘルメットをかぶったことはなかった。

 「東京は交通量が多くて危ないから」。母親は家を離れる女性にヘルメットを着用するよう勧めてきた。

 ちょうど23年4月から、改正道路交通法の施行により、全年齢で自転車に乗る際のヘルメット着用が努力義務化されていた。

 「この際、買っておこう」。女性は上京後、自転車販売店で6000円台のヘルメットを購入し、かぶるようになった。

ヘルメットに亀裂

 警視庁によると、女性をはねた乗用車はブレーキをかけずに、時速約50キロで横断歩道に進入。女性は約15メートル先に跳ね飛ばされた。乗用車のフロントガラスは女性の頭部がぶつかり、クモの巣状に割れていた。

 運転手の20代男性は「夜遅かったため、歩行者はいないと思っていた」と供述し、その後、自動車運転処罰法違反(過失致傷)で略式起訴された。

 事故で女性は、左足の開放骨折や肺挫傷など3カ月の重傷を負った。ヘルメットの前部と後部の計2カ所に亀裂が入ったが、奇跡的に頭部には大きなケガはなかった。

 病院の医師は「ヘルメットをしていなかったら意識不明になっていたかもしれない」と話したという。

「命が大切」

 女性は約3カ月間入院し、その後もしばらくは松葉づえでの生活が続いた。今も足の痛みがあり、病院で処方された痛み止めが欠かせない。それでも、命を落とさなかったことは不幸中の幸いだったと考えている。

 「まさかヘルメットがこんなにも守ってくれるとは思わなかった。格好や髪形を気にして避ける人もいるけれど、オシャレよりも命の方が大切。自転車に乗るときは必ず着けてほしい」

 事故をきっかけに、友人や同僚にそう呼びかけるようになった。【加藤昌平】

着用率17%

 警察庁によると、今年7月に全国の警察が調査したところ、自転車利用者のヘルメットの着用率は前年同月比3・5ポイント増の17・0%だった。

 都道府県別で最も高いのは愛媛の69・3%で、大分48・3%、群馬40・4%と続いた。最低は大阪の5・5%で、次いで低かったのは千葉6・5%、兵庫7・7%だった。10%を下回ったのは9府県で、地域によってばらつきがある。事故に遭った女性が住む東京は15・1%だった。

 19年から5年間の自転車乗車中の死者は1898人で、53・9%が主に頭部のけがが致命傷になっていた。ヘルメットを着用していない場合、頭部を負傷した死傷者に占める死者の割合は、着用者の約1・5倍だった。【山崎征克】

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