ノルウェー沖で2019年に見つかって以来、「ロシアのスパイ」と疑われていたシロイルカがこの夏、死骸で発見された。英BBC放送などが伝えた。この個体を監視していた動物保護団体は「何者かに射殺された」と主張するが、ノルウェー警察当局は「射殺の証拠はない」との見解を示し、死因は不明のままだ。
シロイルカはベルーガやシロクジラとも呼ばれる。問題の個体は、19年4月、露北西部ムルマンスク州の海軍基地から約400キロ離れたノルウェー・インゲヤ島沖で、漁船に近づいてきて発見された。
北極海に生息するシロイルカがこれほど南で目撃されるのは異例で、ロシアのスパイとの疑惑が浮上した。このイルカの体にはカメラ付きのベルトが巻かれ、ベルトには「(ロシア第2の都市)サンクトペテルブルクの備品」と記されていた。
人間に慣れていたこともあり、ノルウェー情報機関は「露海軍に訓練された可能性が高い」と指摘。ロシア側からは公式な見解は出されなかった。
ノルウェーのニュースサイト「バレンツ・オブザーバー」によると、露ムルマンスク州の海上には軍事用のイルカを飼育する「囲い」があるという。
スパイと疑われてきたこのイルカだが、今年8月31日、ノルウェー南西部沖で死骸となって浮かんでいるところを釣り客によって発見された。
動物保護団体は「死骸に弾痕があり、射殺された」と主張した。だが、警察は9月9日、「解剖の結果、長さ35センチ、幅3センチの棒が口に刺さっていた」と発表し、射殺の証拠はないと結論付けた。胃の中は空っぽだったという。棒が刺さっていた理由は不明だが、警察は「これ以上の捜査はしない」としている。
知能の高いイルカは、軍事目的に利用されてきた歴史がある。03年のイラク戦争の際、米軍はイラクのフセイン政権(当時)が海底に設置した爆発物の探索にイルカを投入した。【ロンドン篠田航一】