希望すれば夫婦が結婚後も従来の姓(名字)を名乗ることができる「選択的夫婦別姓制度」の実現を巡っては約30年「たなざらし」の状況が続いている。
法相の諮問機関である法制審議会は1996年、選択的夫婦別姓の導入を答申し、法務省は答申に基づき民法の改正法案を準備していた。ところが、自民党の保守系議員らから「家族の絆が弱まる」などと反対され、国会提出は見送られた。
制度を求める声は根強く、訴訟も起こされてきた。最高裁大法廷は2015年、夫婦別姓を認めない民法の規定を「合憲」とする判決を出した。ただ、改姓でアイデンティティーの喪失感を抱いたり、社会的信用や評価の維持が困難になったりする不利益は否定せず、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」とした。
ボールは政治に投げ返された形だが、その後も活発な議論は行われていない。自民党は21年4月、「氏制度のあり方に関する検討ワーキングチーム」を発足させたが、賛成派・慎重派双方が主張を繰り返すにとどまった。
動かない政治に経済界からも声が上がるようになり、経団連は今年6月、選択的夫婦別姓制度の早期導入を政府に提言した。経団連の調査では88%の女性役員が旧姓を通称として使えても「何かしら不便さ・不都合、不利益が生じると思う」と回答している。これらを受けて、自民党は7月にワーキングチームを約3年ぶりに再開したが、意見集約は見通せない。
「結婚で不平等に直面」
一人っ子の増加を含めて少子化が進む中、制度導入を望む切実な声が上がる。法制化を目指す一般社団法人「あすには」の井田奈穂代表理事(48)によると、800人超の会員のうち、10~20代は一人っ子が多いという。一人っ子同士のカップルもおり「名字を変えると名義変更が大変で仕事に支障が出る。自分がしたくない改姓を相手に押しつけられない」と悩む人や、「先祖代々受け継いだ名字を自分の代で絶やす罪悪感がある」として結婚に踏み切れない人もいるという。「平等だと言われて教育を受けたのに、結婚しようとした途端、不平等に直面するのが現状」と指摘する。
井田さんは「結婚に二の足を踏んだり、事実婚を選んだりする国民がいるのに、国や行政は婚活事業に税金をかけており、優先順位を間違えている。選択的夫婦別姓制度をすぐにでも法制化すべきだ」と強調している。【前本麻有】