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囲碁の伝道師・吉原由香里六段 ゲームに漫画、普及活動の魅力は


 趣味の多様化で囲碁人口が大幅に減少するなど、苦境に立たされている囲碁界。人気回復のための普及活動に力を入れる棋士も増えているが、その中心的な存在は何といっても、吉原由香里六段(50)だろう。プロ入り以来、約30年にわたり、全国各地のイベントや囲碁教室などで普及活動を続けてきた。普及の原動力になっているのは何か。

 「監督としてチームを応援することがこんなに胃が痛いとは。今日は負けてちょっと悔しかったけど、これでむしろ気楽になったかな。今後も楽しみにしてください」

 7月27日に開幕した「第1回日本女子囲碁リーグ」。「チームセンコーグループ」の監督を務める吉原六段は、終局直後にこう語った。

 同リーグは、東京や名古屋、福岡の企業などが支援する5チームで構成。日本棋院が今年創立100年を迎えたのに合わせて創設されたもので、女性棋士のレベルアップと人気回復を図るのが狙いだ。その初代監督の一人として、人気の高い吉原六段が選ばれた。「人気も実力も上がっている女性棋士のチームを率いることができるのは光栄。とにかくリーグを盛り上げて、今後も続くように頑張りたいですね」

異例の司会抜てき

 囲碁を始めたのは6歳の時。父に勧められたのがきっかけだった。間もなく近くの囲碁教室に通うようになり、実力を伸ばす。「教室の帰りに父がサンリオショップで消しゴムや鉛筆などを買ってくれるんです。それが楽しみで、教室に通っていました(笑い)。とにかく熱心な父でした」

 14歳の時、故加藤正夫名誉王座の門下に入る。プロ棋士養成機関の日本棋院の院生となるが、採用試験に何度も失敗。大学1年の時に年齢制限により院生を辞める。「プロを目指して囲碁中心の日々でしたが、大学になると世界が広がって生活が一変して全然集中できなくなりました」。しかし、大学3年の時に自らの運命を大きく変える出来事が起きる。父親の死だった。

 「私が囲碁で強くなることに情熱を傾けてくれた父が亡くなり、『自分は何をしたいのか』と自問自答しました。そして、やっぱり囲碁のプロ棋士になりたいと思いました」

 大学の友人たちが就職活動に取り組む中、囲碁の勉強に集中した。そして大学4年の冬にプロ採用試験に合格する。「もうこれで試験を受けずに済むんだ、という解放感と喜びでいっぱいでしたね」

 卒業直後、NHKの囲碁番組の司会に採用される。プロ入りして1局も打たないままの異例の抜てきだったが、明るく親しみやすい性格で瞬く間に囲碁ファンの心をつかむ。そして、企業や碁会所などから指導碁やイベントの司会、マスコミからの取材依頼などが殺到する。

 「ほとんど何の研修も受けていないのに、いきなり指導やイベントの司会をしなければならず、どうしていいか分からず不安ばかりでした。対局以外の仕事があまりに忙しくて、ひと月のうち、自宅でゆっくりと休めたのは1日ぐらい。体も心もボロボロの状態でした」

 生活に落ち着きを取り戻したのはプロ入り3年目、NHKの番組司会を終えたころだった。時間に余裕ができた時、母親に言われた言葉を思い出した。

 <プロになったら、普及活動もやってみたら>

 日々の対局のかたわら、普及活動にも本格的に取り組み始める。一番大切にしたのが、いかに分かりやすく囲碁の面白さや魅力を伝えるか、ということだった。「当時は、しっかりとした囲碁の入門方法がほとんど確立されていませんでした。指導教室やイベントでのトライ・アンド・エラーを重ねる中で、私なりの指導方法を考えました」。入門書などの著書は20冊超。プロ入り直後のハードな毎日と培った経験が普及活動の土台を作ったという。

漫画・ゲーム監修

 普及活動はその幅を広げていく。2000年代初めの囲碁ブームの火付け役となった漫画「ヒカルの碁」の監修をはじめ、初心者向けの囲碁アプリゲーム「囲碁であそぼ!」の開発プロジェクトチームに参加。また、東京大や東邦大で特任准教授などを務め、学生たちに囲碁の魅力や奥深さを伝え続けている。「碁を打つのも好きだし、棋士も好きだし、囲碁界が好きだし。好きがいっぱい集まった世界なんです。その世界を何とかしないといけないという思いがいつもありました。人に恵まれたおかげで、いろいろなことができました」

 その好きな世界で棋士としての「夢」もつかむ。07年の女流棋聖戦で初のタイトルを獲得し、その後に3連覇を果たす。「それまで準優勝は2度ありましたが、いつも決勝でひどい碁を打ってしまって。タイトル獲得というのは大きな壁でした。それを乗り越えることができたことは本当にうれしかったし、応援してくださる方に報告できたこともうれしかったです」

 プロ入りして今年で28年。現在、「囲碁であそぼ!」の第2弾の開発を検討中という。「普及活動で一番頑張っているのは、碁会所や教室などを運営している現場の人たちです。そういう人たちを少しでもサポートできたらいいですね」。柔らかな表情の中に、普及への強い思いもにじませた。【武内亮】

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