タイの憲法裁判所は14日、閣僚人事を巡り倫理上の問題があったとしてセター首相に対する解職請求を認めた。国軍に近い元上院議員らがセター氏の任命責任を追及していた。軍をはじめとする保守派の意向が影響した判断とみられ、政治的な混乱が深まりそうだ。
憲法裁の裁判官9人のうち5人が、解職が妥当とした。4月の内閣改造で首相府相に就任したピチット氏は2008年に法廷侮辱罪で実刑判決を受けており、憲法が定める閣僚資格に反すると判断。その上で、任命したセター氏には倫理的な責任があるとした。
地元メディアによると、ピチット氏はタクシン元首相の汚職を巡る裁判で弁護人を務めた際、最高裁職員に賄賂を渡そうとしたとして短期間服役した。閣僚職は既に辞任している。
セター氏は昨年8月、タクシン派の「タイ貢献党」から首相に選ばれた。06年の軍事クーデターで失脚し、国外逃亡していたタクシン氏も帰国。タクシン派は対立関係にあった親軍政党や保守政党と大連立を組んで政権を発足させたが、人事や政策などを巡って権力争いが続いている。
失職したセター氏は判決後、「憲法裁の判断を受け入れる」と述べる一方、「これまで最善を尽くし、誠実に仕事をしてきた」と悔しさをにじませた。新首相が決まるまで、プンタン副首相兼商務相が職務を代行する。
法政大学の浅見靖仁教授(タイ政治)は「依然として保守派の政治的な影響力が残ることを示した」と指摘。保守派の最大の狙いはセター氏ではなく、本格的な政治活動を再開させたタクシン氏へのけん制であり、タクシン派への警告だったとみている。
憲法裁は今月7日、王室への中傷を禁じる不敬罪の見直しを訴えた最大野党「前進党」に解党を命じたばかりだった。タクシン氏も過去の発言が不敬罪にあたるとして起訴されており、近く審理が行われる予定だ。【バンコク武内彩、石山絵歩】