岸田文雄首相は長崎原爆の日の9日に長崎市を訪れ、爆心地の東西約7~12キロで原爆に遭ったとして被爆者と認めるよう求めてきた「被爆体験者」と面会して問題の「合理的解決」を表明。同席した武見敬三厚生労働相に対応策の調整を指示した。そのわずか5日後の自民党総裁選への不出馬表明に被爆者らからは救済策の先行きを不安視する声が上がった。
被爆体験者を支援してきた被爆2世の平野伸人さん(77)=長崎市=は9日の面会の場で「被爆体験者は被爆者じゃないんですか」と岸田首相に救済を迫った。「岸田氏に『ちゃんとやります』と言われ、光が見えたと思ったばかりだったので、はしごを外された気持ちだ。あの時に(不出馬を)決断していたなら無責任だと思う。次の首相は、岸田氏の発言の重さを受け止め、解決の方向に動いてほしい」と求めた。
長崎県被爆者手帳友の会の朝長(ともなが)万左男(まさお)会長(81)は、岸田首相が2023年の広島での主要7カ国首脳会議(G7サミット)で「核兵器のない世界」を究極の目標とする首脳宣言をまとめたことを「大きな功績」とする一方で、「核兵器禁止条約に署名しないという方針を貫き、被爆者としては不満が残る。被爆体験者についても、厚労相に対応を指示したが、結果を見ずに首相を辞めることになり、残念だ」と話した。【松本美緒】