学校給食などで提供され、多くの世代に愛されてきた魚肉ソーセージ。日本で誕生してから約90年のロングセラー商品だ。近年は、下落した生産量が横ばいを続けていたが、SNS(ネット交流サービス)などでは「ギョニソ」の愛称でさまざまなレシピを紹介する投稿が相次ぐなど、人気復活の兆しを見せている。
水産大手・マルハニチロによると、魚肉ソーセージの誕生は諸説あるが、大正時代に国内の水産試験場で試作され、1935年に当時の農林省(現農林水産省)水産講習所の教授がマグロを使ってツナハムを試作販売したのが最初とされている。
現在は原材料にスケソウダラや、ホッケなど白身魚のすり身が使われることが多いが、当初はクジラやマグロが主な原料だった。
マルハニチロ(当時の大洋漁業)は53年に本格的な生産販売を開始。60年代になると、現在のように白身魚のすり身が使われるようになり、食卓に浸透していった。
生産量は72年に約18万トンでピークを迎え、その後は原材料の冷凍すり身価格の上昇や食生活の変化で減少傾向に転じた。2010年代の生産量は5万トン台まで落ち込み、近年は横ばいが続いていた。
そんな中、魚肉ソーセージに復活の兆しが見え始めた。全国のスーパーなどから販売データを集めるKSP―SP社(東京都)によると、24年3月の来店客1000人あたりの魚肉ソーセージの販売金額は2508・5円で前年同月比13・3%増となった。
マルハニチロによると、最近のペースで推移すれば24年度の同社の魚肉ソーセージの販売実績は直近10年で最高となる見通しだという。
実際、SNS上では「ギョニソ」を使ったアレンジレシピも多く投稿されている。
なぜ再び注目されているのか。
マルハニチロの担当者は「手ごろな価格と、手軽にたんぱく質が摂取できる点」を要因として挙げる。
歴史的な円安の影響もあり、畜肉ソーセージ含めて食品の値上げラッシュが続いてきたが、もともと畜肉ソーセージなどに比べて割安な魚肉ソーセージがここにきて庶民の懐具合にマッチした形だ。
また、近年の健康志向の高まりで、サラダチキンや豆腐バーといった、たんぱく質を片手で食べられる商品が浸透したことで、高たんぱくの魚肉ソーセージも支持を集めているようだ。
手軽に食べられるほか、常温保存が可能なことも、魚肉ソーセージが選ばれる機会が増えた理由とみられる。
そして販売各社は近年、ノドグロやイワシ、サケといった国産魚種を用いた商品や、健康効果などの付加価値を訴求する商品を開発するなどバリエーションを広げており、さらなる需要拡大につなげたい考えた。【松山文音】