陸上自衛隊の北富士演習場(山梨県)で5月、手りゅう弾の投てき訓練中に隊員1人が死亡した事故で、陸自は18日、原因などに関する調査結果を公表した。手りゅう弾は正常に作動したものの、破片が曲線軌道で飛散する場合もあるとの危険性を部隊全体で認識しておらず、隊員は飛散に備えて的確に身を守れなかったと結論付けた。また連隊長ら幹部が必要な教育や指導をせず、職責を果たしていなかったと指摘した。
調査結果を踏まえ陸自は、教育内容の見直しなどの再発防止策を講じたうえで、事故後見合わせていた手りゅう弾の投てき訓練を再開する方針。指揮監督や安全管理については今後も問題の有無を調べ、関係者の処分を検討する。警務隊も捜査しているという。
事故は5月30日午前8時40分ごろ、第1師団第1普通科連隊(東京都練馬区)の隊員24人が参加した手りゅう弾の投てき訓練中に発生。事故当時は「投てき壕(ごう)」と呼ばれるコの字形の防護壁(高さ約1メートル)の内側から交代で手りゅう弾を投げ、1回ごとに壁に隠れて身を守る訓練が行われていた。
死亡した山宮拓3等陸曹(当時29歳)は、投てきの号令をかけたり指導したりする「射撃係」を務めていた。同じ投てき壕にいた30代の男性隊員が手りゅう弾を約30メートル先の標的に向かって投げた際、飛散した破片が首を直撃した。陸自による調査では、前方の壁との位置関係が焦点となった。
戦闘訓練の基礎基本をまとめた「教範」は、手りゅう弾の破片は直線ばかりでなく曲線の軌道で飛び散る場合もあるため、壕内では前方の壁にもたれるようにして頭を伏せ、身を守ることなどを定めている。だが調査の結果、山宮3曹は前方の壁から2・87メートルの位置に、投てきした隊員も1・36メートル離れた位置にしゃがんでいたことが判明した。破片は直線的に飛ぶもので、防護壁の内側に隠れていれば安全との思い込みが影響したとみられる。
手りゅう弾の破片の危険性については、陸自が全国の普通科連隊を対象にアンケートを実施したところ、今回の事故と同様の認識不足が一部で確認された。再発防止に向けて陸自は、前方の壁にもたれるように低い姿勢を取る必要があることを動画や写真を用いて、より分かりやすく指導するほか、各部隊の指揮官に教育の必要性の周知を図るとしている。【松浦吉剛】