化学機械メーカー「大川原化工機(おおかわらかこうき)」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件を巡り、勾留中の東京拘置所で適切な医療を受けられずにがんの発見が遅れたとして、被告の立場のまま病死した同社元顧問の遺族が国に1000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は21日、請求を棄却した。
元顧問は相嶋静夫さん(当時72歳)。相嶋さんは2020年3月、軍事転用可能な装置を不正輸出したとして社長らとともに外為法違反容疑で警視庁公安部に逮捕され、東京地検が起訴した。社長らの勾留は約11カ月に及び、相嶋さんは21年2月にがんで死亡した。地検は初公判4日前の同7月に「起訴内容に疑義が生じた」として起訴取り消しを公表した。
訴状によると、相嶋さんは亡くなる7カ月前の20年7月に東京拘置所で貧血の症状が出て、その後は胃痛や血が混じった便も確認された。同10月の拘置所の検査で胃に悪性腫瘍が見つかり、一時的に勾留の停止が認められて外部の病院を受診し、進行胃がんが判明。外部の病院に入院できたのは同11月だった。
遺族側は訴訟で「拘置所は適切な検査や早期の転院を怠った。適切な対応がなされていれば延命できた」と訴えた。これに対し、国側は相嶋さんの貧血は軽度で精密検査を必要とする状態ではなかったと主張。血が混じった便が確認された後には内視鏡検査を実施していることなどから「対応に問題はない」と反論していた。
大川原化工機を巡っては、違法な逮捕・起訴があったとして社長らが国と東京都に損害賠償を求める別の訴訟を起こしている。東京地裁は23年12月、国と東京都に計約1億6200万円の賠償を命じる判決を言い渡し、双方が東京高裁に控訴している。【巽賢司】