韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が打ち出した大学医学部の入学定員の大幅拡大策に、医師たちが強く反発し、研修医による抗議の職場離脱が続く。3日にはソウル市内で2万人規模とされる医師らによる大規模デモが行われ、参加者は「根拠のない医師増員。被害者は国民だ」などのスローガンを叫んだ。医師たちはなぜそこまで怒るのか。
日本と同じ2.6人 OECD平均より少なく
韓国政府は2月上旬、医学部定員を2025年度から、現行の3058人を5058人へ増やす方針を打ち出した。定員増は06年度以来。地方などを中心に医師が不足し、医師、患者双方の高齢化も進んでいるためだ。韓国の人口1000人当たりの医師数は2・6人。経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の3・7人よりも少ない。
文在寅(ムン・ジェイン)前政権時代の20年にも政府は定員を年400人増やす方針を打ち出したが、医師たちの反対で頓挫した。国民の間では「高給取りの医師たちが特権を維持しようとしている」との見方も強く、世論調査では7割以上が定員増を支持している。
なぜ、そこまで反対するのか、大韓医師協会の元会長で、非常対策委員会言論広報委員長をつとめる朱秀虎(チュ・スホ)さんに聞くと、「そもそも医師の数は不足していない」との反論が返ってきた。朱氏によると、韓国国民は1人当たりでOECDで最も病院に行く回数が多く、平均寿命も長い。良質な医療を受けている証しだという。「特権維持が狙い」との説については「医師を悪魔化したレッテル貼りで、現政権による政治利用だ」と切り捨てた。
韓国政府は職場離脱した研修医らに対して、医師資格の停止措置もありうると示して復帰を求めるが、医師側の反発は強く事態が長期化する可能性も高い。
ただ、日本も直近の人口1000人当たりの医師数は2・6人と韓国と変わらず、平均寿命も長いが、08年度の約7800人から24年度は約9400人まで医学部の定員を増やしている。業務負担軽減などの理由で、医師側からも定員増は支持されているようだ。韓国の聯合ニュースは2月上旬、「日本の地方自治体と医療界は、まだ医師が不足していると声を上げており、韓国とは正反対だ」と伝えている。【ソウル日下部元美、坂口裕彦】