別病院対応のケースも
鳥取県立中央病院(鳥取市)の救命救急センターが今月、県東部広域行政管理組合消防局(東部広域消防局)に対し、現場に出動した救急救命士が医師の指示を受けて行う必要がある「特定行為」の指示要請に応じないとするメールを送信し、10日間にわたり、実際に指示していなかったことが関係者への取材でわかった。救急搬送の遅れなど患者への影響は確認されていないが、別の病院に指示を求めるなどせざるを得ず、「1分1秒を争う救急医療の現場ではあり得ない」などと病院側の対応を疑問視する声が出ている。【山田泰正】
東部広域消防局は鳥取市と岩美、若桜、智頭、八頭の4町の救急搬送を担当している。中央病院と同消防局によると今月5日、「医学的観点からの責任問題もあり、当院ホットラインへの指示要請、及び検証医への検証は応諾いたしかねます」などと書かれたメールが病院側から消防局に届いた。消防局側は混乱を避けるため、管内の救急隊12隊にメールの内容を伝えたうえで、「万一、指示がもらえなければ、別の病院に電話するように」と周知。関係者によると、「二度手間になり、搬送の遅れにつながる」など懸念の声が現場の隊員から上がったという。
消防局幹部は中央病院を何度も訪ね、「通常通り指示をしてほしい」と要請。県消防防災課にも事態の収拾に向けた協力を依頼した。その結果、14日夜に「ホットラインの運用を通常通り再開する」というメールが中央病院から届き、翌日から指示が出るようになったという。
消防局によると、この10日間で別の病院に指示を要請したケースは3件あった。中央病院側から明確な説明や謝罪はないという。消防局は一連の経緯を組合管理者の深沢義彦・鳥取市長に報告した。
「判断あり得ない」
救急救命士は出動要請を受けて救急車で現場に向かうと、地域のメディカルコントロール協議会が定める手順(プロトコル)に従い、患者に処置をしながら医療機関へ搬送する。重篤な患者への気管挿管や薬剤投与などの「特定行為」はその都度、専用電話(ホットライン)で医師の指示を受けることが救急救命士法で定められている。
同消防局はプロトコルを作成する「県東部メディカルコントロール協議会」の事務局を担当する。協議会はプロトコルの改定に向けた作業中で、中央病院の廣岡保明院長は「その過程で関係者の意見の食い違いがあり、救命救急センターの担当医が不適切なメールを送信したようだ」と説明している。
県東部地区では、中央病院が重篤な患者を対象とする3次救急医療機関。鳥取市立▽鳥取赤十字▽鳥取生協▽岩美▽智頭の5病院が主に中等症患者を受け入れる2次救急医療機関に指定されている。消防局は今回、中央病院から医療行為の指示要請に応じない旨の連絡があったことを5病院に伝え、代わりに対応するよう要請。指示要請や転搬送の増加を想定して態勢を整えた病院もあった。
県東部の病院で勤務する救急医は「救急の現場で『特定行為』の指示をしないという判断はあり得ない。いかなる理由があっても指示を遅滞させるのは異常な対応であり、医師の良心として許しがたい。中央病院は経緯について説明するべきだ」と指摘している。