36人が犠牲になった2019年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第5回公判が13日、京都地裁であり、引き続き被告人質問が行われた。被告は事件前月に大宮駅(さいたま市)前で無差別殺人事件を起こそうとした動機の一つを「(京アニが)作品をパクったことを伝えられると思ったから」と説明し、08年に東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件を参考にしたことも明らかにした。
青葉被告は16年、京アニの作品公募に2本の小説を出したが落選した。その理由を「世界のバランスを取る人物が落選させた。(私に)発言力を持たせないため」と考えたとし、「がっかりした。裏切られた気持ちだった」と京アニへの思いを語った。
被告の説明によると、18年11月に京アニ制作のアニメ「ツルネ」をテレビで見て、自身の小説を盗作されたと思い込んだ。別の京アニ作品でも盗作されたと感じていた被告は、インターネット掲示板に「ツルネでもパクってやがる。ここまでのクズみたことねえ」と書き込んだという。
その後、「メッセージ性がある犯罪を起こさないと(京アニなどから)離れられない」「パクった対象(被告)がそこまでの事件を起こしたと伝えたい」と思うようになり、当時住んでいたさいたま市で大事件を起こすことを計画。19年6月、秋葉原事件を参考に包丁6本を購入し、自転車で大宮駅に向かった。しかし人通りが少なく中止したといい、「(人を)刺してもすぐ逃げられ、大きな事件にならないと思った」と述べた。【久保聡、高良駿輔】
被告人質問の主なやりとり
第5回公判で実施された被告人質問の主なやりとりは以下の通り。質問はいずれも弁護人。
――(京アニ大賞に)長編と短編の小説を応募していますが、結果は。
◆落選になります。メールが送られてきて知った。
――落選を知った時、どう思ったか。
◆がっかりした。裏切られた気持ち。
――応募の結果、どうなると思っていたか。
◆公式に賞はもらえないが、編集者が「これだ」と思った人にはじきじきに連絡が来ると思っていた。
――落選した理由は。
◆そこまで聞いていない。
――自分の小説に問題があったか。
◆要するにつまらなかったということでしょう。
――当時はどう思っていたか。
◆頑張って書いた小説だから「なんで通らなかったのか」という気持ちがあった。
――誰が落選させたと思うか。
◆(青葉被告が「闇の人物」と主張する)ナンバー2という人だと思う。
――どうしてナンバー2が関わっているのか。
◆自分の言うことに発言力を持たせたくなかったのではないか。圧力をかけて落選させたのではと思う。
――ナンバー2の狙いは。
◆世界のバランスを取っていると思う。
――もし大賞を取っていたら、どうなっていたと思うか。
◆何かしらの本を書いていたと考えている。
――(被告が応募した際の)大賞は受賞者がいなかったのは知っていたか。
◆はい。「何だ、この会社は」と思った。
――インターネット上の掲示板に「今回は特別な負け方だからいいんだけれども」と書き込んだか。
◆私の書き込みです。
――「特別」とは。
◆アニメ業界からパクられ、京アニが圧力をかけて落とした。
――その後、自分の書いた作品はどうするつもりだったか。
◆サイトにアップして、活動していこうと思った。(長編と短編の)両方をアップした。
――どうなったか。
◆(サイトには)50万作あるので、見てもらえない。サイトからは退会した。
――どうして誰も見てくれないと分かるのか。
◆PV(ページビュー)という閲覧した人の数字が分かる。
――それがゼロだった。
◆そうですね。
――この前後で、当時書いていた小説のアイデア帳を燃やしたのではないか。
◆もう小説と関わりたくないと思った。
――京アニとはどうか。
◆京アニとも関わりたくないと思った。
――アイデア帳を燃やしたというのは。
◆10年間コツコツと小説のアイデアを書き留めたもので、燃やすことで自分の意思表示をした。関わらないということを。
――どんな気持ちだったのか。
◆うんざりしていたほかない。
――(青葉被告は当時、精神科クリニックを受診後、訪問看護を受けていた)看護師は「包丁を持って青葉被告に対応された」と言っているが、どうしてか。
◆つけ回されている感覚があった。
――誰に。
◆警察の公安部でしょうか。
――この頃、騒音を出して警察を呼ばれている。なぜか。
◆上がうるさかったからだと思います。
――どういうことか。
◆ドンドンという音やローラーを回すような音が夜中でもあった。夜、眠れないから昼夜逆転の生活になった。
――(京アニ作品の)「ツルネ」をテレビで見たか。
◆京アニから離れたいと考えていた。でも、たまたま見て、離れられないと決意した。
――(インターネット上の掲示板に)「ツルネでもパクってやがる」と書き込んだか。
◆自分になります。
――ツルネのシーンを見て。
◆そうなります。
――(掲示板にある)「京アニに裏切られた」「爆発物を持って京アニに突っ込んだり、無差別テロをしようとするわけでもないんだから」などの書き込みは。
◆自分で間違いありません。
――(この頃、京アニの監督が外部の賞を受賞して)どう思ったか。
◆物を作ってちゃんとしている人間より、パクった人間が評価されるのにうんざりしていた。
――監督と比較して、当時の自分をどう思うか。
◆監督はどんどん上に行き、自分はどんどん下に行く。それしかないです。
――アイデアを盗まれたと確信したのはいつ?
◆落選したというところで、確信っぽくなっていったというのはあります。
――さいたま市の大宮駅で無差別殺人事件を起こそうとした。目的は。
◆物事から離れるためにメッセージ性を帯びた犯罪をしないと離れられないと思った。
――物事とは。
◆追い掛け回され、監視されていること。京アニから逃れるため。京アニと離れるためには「大きなことをしないと」と思った。
――大きなことをしないと、パクりが終わらないと思ったのか。
――無差別殺人事件は京アニにどんな影響を与えるためなのか。
◆作品をパクったことで(自分が)事件を起こしてしまった。パクったことがそうした結末になったことを伝えられる。
――どんな計画だったのか。
◆(東京・秋葉原の歩行者天国で男女17人が死傷した無差別殺傷事件を挙げ)犯人はレンタカーで突っ込み、刃物で数人刺した。それをやるとするなら、最低限必要なのは鋭い刃物を何本かということで、6本ほど購入した。
――どこまで行ったのか。
◆大宮駅前の西口の方かな。人の密集度が低いことを確認し、そういう犯行にはならないということで、やめて帰った。
――無差別殺人事件を起こそうとしたのは、つきまとわれることや京アニから離れることと説明していたが、誰につきまとわれていたか。
◆警察の公安部ではないかと思います。
――そうさせているのは。
◆ナンバー2という方だと思います。
――ナンバー2と京アニの関係についてどう思っていたか。
◆おそらく何らかアクセスできる、話を通すというか、原稿を落とすようなことができると思っていた。何かしらでつながりがあると。