中米で近年、台湾と断交し、中国と国交を結ぶ動きが相次いでいる。狙いの一つが、輸出の拡大だ。今年3月に台湾との関係を解消し中国に乗り換えたホンジュラスも、対中輸出の増加をてこに経済を活性化させる青写真を描く。しかし、輸出の主力品の一つである養殖エビの業界を取材すると、期待と不安の入り交じった声が聞こえてきた。
首都テグシガルパから車で約3時間。太平洋に面する南部チョルテカ県に入ると人工池が点在していた。食用のバナメイエビの養殖場だ。
「中国市場は巨大だ。できるだけ早く輸出したい」。ホンジュラス水産養殖協会(ANDAH)のフアン・ハビエル会長(53)は世界第2の経済大国の潜在性に期待を寄せた。
エビの養殖場は国内に409カ所、計約2万2000ヘクタールあり、昨年の輸出額は2億8240万ドル(約406億円)とコーヒー豆、バナナ、パーム油に次ぐ4位。中でもチョルテカ県は国内最大の集積地で、生産量は国全体の9割を占める。台湾との間では2008年に発効した自由貿易協定(FTA)で関税免除となり、輸出が加速。現在、エビ輸出の約4割は台湾向けだ。
だが台湾との断交を受け、ホンジュラス政府は6月、FTAを破棄すると台湾側に一方的に通告した。年内に破棄され、エビには関税が課せられる見通しだ。一方、中国は既にホンジュラス産の養殖エビの輸入を認可し、両国政府は7月4日からFTA締結に向けた交渉も始めた。
「台湾はメインの市場だ。だが今後は中国と取引せざるを得ない」。台湾向けが売上高の半分を超えるチョルテカ県の企業の幹部は、こう複雑な心境をのぞかせる。中国との取引に乗り気でないのは、中国企業から安値で買いたたかれる懸念があるためだ。
ANDAHのハビエル会長によると、中国側のバイヤーはホンジュラスの複数の生産者に対し、台湾との取引の半値ほどの価格を提示してきたという。背景には、インド産などが出回り、競争が激しい中国市場の事情もある。
人口約1000万人のホンジュラスで、養殖エビ業界の雇用創出効果は輸送など裾野産業を含めると10万人以上とされる。19年時点で1日6・85ドル以下で暮らす貧困層が49・5%に上ることを考えると、最低月収540ドル程度の養殖エビ業界はまだ待遇が良いと言える。
中国市場については、労働者の間にも悲観的な声が出ている。チョルテカ県の企業の生産管理部門で働くマヌエル・ケイロスさん(45)は「中国との取引で利益が出るとは思えない。業績が悪化すれば、養殖場を閉鎖する企業も出てくるのではないか」と表情を曇らせた。【チョルテカ(ホンジュラス南部)で中村聡也】
近年、台湾と断交し中国と国交を結んだ中米の国
2007年 コスタリカ
2017年 パナマ
2018年 ドミニカ共和国
エルサルバドル
2021年 ニカラグア
2023年3月 ホンジュラス