インターネット上で猫を虐待する動画が投稿されたことをきっかけに、中国で動物虐待を罰する法律の整備などを求める運動が活発化している。「ゼロコロナ」政策に市民が白い紙を掲げて抗議した「白紙運動」など各種のデモが厳しく押さえ込まれる中、人権ではなく動物の権利擁護が新たな市民運動として現れた形だ。
「猫の虐待行為は社会の敵だ」「法を早期に制定し虐待者に罰を」。中国のネット上では最近、こんな書き込みが相次ぐ。きっかけは、3月に安徽省の男性ブロガー(29)がSNS(ネット交流サービス)に投稿した猫の動画だ。
男性はわなで捕まえた猫に3日間餌を与えず、フォークで刺すなどの虐待を繰り返した上、焼き殺す映像を投稿。残虐性にネット上で批判が相次ぎ、男性は4月下旬、警察に拘束された。だが中国では野良猫への虐待を罰する明確な法律はなく、釈放された。
男性はネット上で謝罪文を公表したが、釈放後も子猫などの虐待動画の投稿が発覚。抗議が激化し、台湾メディアなどによると、広東省、福建省、山東省などで動物虐待に反対する集会が開かれた。1000人以上が参加した都市もあったという。
海外在住の中国人の間にも運動は広がっている。東京で5月に街頭活動が行われ、米ニューヨークのタイムズスクエアのディスプレーには「愛護動物 停止傷害」の広告が掲げられた。
一方、国内の官製メディアはこうした活動をほとんど報じていない。ある動物愛好家は「当局は人々が集まることを好まない。だからメディアも報道を控えているのだろう」と推測する。
運動の背景の一つには、近年のペットブームで動物愛護の意識が高まっていることがある。経済発展に伴い、ペットの犬や猫は都市部で計1億1000万匹を超えたとされるが、問題も増えている。河南省の物流拠点では2020年、個別に箱詰めされた子犬や子猫などの約5000匹の死体が見つかった。ネット通販で「商品」として発送された後、餌などを与えられず衰弱死したとみられる。
21年には江西省で「ゼロコロナ」政策によって感染者の出た集合住宅が封鎖され、飼い主は陰性だったのにペットの犬が当局者に撲殺される様子がSNSに投稿された。今年5月下旬には山東省で、酒に酔った男性がペットの犬を惨殺する動画が流された。
事件が起きる度に、動物への虐待防止などを定めた法の制定を求める声が上がる。全国人民代表大会(全人代=国会に相当)でも毎年のように立法を求める意見が出されてきたが、進展はみられない。動物を漢方薬の原料に使ったり、犬を食用にする地域が残ったりするなど、慣習上の課題が背景の一つにある模様だ。
動物虐待に関する法律に詳しい孫穎弁護士は「経済的、文化的な要因など複雑な要素が絡み合っており、すぐに法律を作るのは難しい」と分析した上で「各都市で制定されている動物の飼育管理条例や野生動物保護法など、既存の法体系の中で改善を進めるのが現実的だ」との見方を示す。【北京・岡崎英遠】