starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

さい銭箱破壊、転じて交流 イスラム教と神道「我々に対立ない」


 「ここに神様はいない」。黄色い装束に身を包んだ男性は叫びながら神社のさい銭箱を破壊した――。イスラム教徒を称する外国籍の男性が器物損壊容疑で逮捕される事件があった。この出来事をきっかけに、イスラム教徒と神道関係者が協議し、相互交流と理解を深めていくことになった。

 神戸市垂水区の清閑な住宅街にある坂を上ると、鎮守の森に包まれた神社がある。明石海峡を見渡す高台にあり、汗ばむこの季節には一服の涼を求める参拝客も多い。厄よけの神様をまつり、古くから地元で親しまれてきた神社で5月初旬、ある事件が起きた。

 「アッラーの他に神はいない」「ここで祈るな」

 外国籍の男性は、周りの参拝客に向かって片言の日本語を口にしながら、境内でさい銭箱を蹴るなどの破壊行為をした。境内の防犯カメラには、黄色の装束で、頭に動物の毛のようなもので作られた帯を巻いて暴れる男性の姿が映っていた。神社は被害届を提出した。

 5月23日、垂水署は市内に住む無職でガンビア国籍の男性(29)を器物損壊の疑いで逮捕した。逮捕容疑は3日午前9時半ごろ、さい銭箱を蹴るなどして破壊し、手水舎(ちょうずや)の竹筒を引きちぎったほか、拝殿前に備え付けの札入れを地面にたたき付けて損壊したとしている。「違法な逮捕で何も言うことはない」。署によると、男性は容疑を否認している。

 宮司によると、参拝客に「神様は(イスラム教の唯一神)アッラーしかいない。ここに神様はいない」などと訴えていたという。また、この事件前にも同一人物とみられる男性が訪れ、同様の主張で叫んでいた。動機は不明だと宮司は頭をひねるが「大変残念。やったことは許されない」と憤る。

 ガンビアは西アフリカに位置する人口約264万人の国で、イスラム教徒は9割を占める。

キリスト名乗りモスク訪問

 一方、この男性の行動を巡っては不可解な点がある。この男性が「イエス・キリスト」を名乗り、市内のモスク(イスラム教礼拝所)を訪れていたことが判明した。

 事件の約3週間前にさかのぼる。同じ服装をした男性は4月上旬、神戸市中央区の「神戸ムスリムモスク」を訪れた。自身がキリストだという主張を繰り返し、応対した職員が「なぜそう思うのか」と問うと、「これが証拠だ」と黒色の石を示した。「神のシンボル」なのだという。

 困惑する職員に対し、男性は一方的に語り続けた。10日間ほどモスクに通い続けたが、その後、姿を現さなくなった。

 「彼の言うことは支離滅裂で、本当にイスラム教を信仰していたのか疑問だ」。モスクのイマム(指導者)を務めるサラー・アメル・ムハンマドさん(30)が語る。「日本社会の中で孤立し、精神を病んでいたのではないか」

 事件を受け、宗教法人日本ムスリム協会は5月25日、「このような行為は法的観点からも、宗教的観点からも誤った行為」と非難する声明を発表した。「人々の心のよりどころである宗教施設の所有物を故意に損ねることは倫理的な罪でもある」と説明している。

 また、同協会の幹部ら在日イスラム教徒が同30日、被害にあった神社と県神社庁を訪問。佐藤裕一副会長(49)は「犯行はイスラムの教えに反しており、男性個人の責任や動機が考えられるべきで、宗教の問題ではない」と述べた。そして「日本に住むイスラム教徒は積極的に日本の宗教や文化、習慣を学び、日本社会と交流していく姿勢だ」と伝えた。

 事件は異文化や異教の相互理解の難しさをはらんでいる。だが、神戸は1868年の開港以降、多文化共生の歴史を歩んできた。県神社庁の岩熊利教事務局長(47)は、今回の事件について「宗教的な問題や対立があるとは考えていない。イスラム教徒の方々と交流を深めていかなければと考える機会になった」と話す。

 署によると、男性が日本に入国した経緯や詳しい生活状況は明らかになっていない。【大野航太郎】

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.