長野県中野市で男女4人が殺害された事件は6月1日で発生から1週間となる。殺人容疑で逮捕された農業の青木政憲容疑者(31)=中野市江部=は、死亡した2人の女性から事件の当日に「『(独り)ぼっち』と言われたように聞こえた」などと供述しているという。2人と青木容疑者に明確な接点はなく、そう思い込んだ可能性がある。一方で、捜査関係者や知人への取材からは、孤立感を深める中で青木容疑者が周囲を敵視していくような姿が浮かび上がってきた。県警捜査本部は家族らからも事情を聴き、事件に至る経緯の解明を進めている。
「(自分が)ぼっちだと、大きな声で話しながら歩いているんだ」。捜査関係者によると、青木容疑者は、村上幸枝さん(66)と竹内靖子さん(70)を殺害した理由についてそうした趣旨の話をしているという。
青木容疑者は5月25日午後4時25分ごろ、自宅近くを散歩中だった女性2人を刃物で次々と襲い、パトカーで駆けつけた県警中野署の玉井良樹さん(46)と池内卓夫さん(61)を殺害したとみられる。そして自宅に約12時間立てこもった後、逮捕された。
捜査関係者によると、青木容疑者は首都圏の大学に在学中も周囲から「ぼっち」とからかわれていた、と家族に話していたという。大学は中退し、地元で両親らと暮らすようになった。
故郷ではジェラート店で働いていたが、2022年夏に「(店員から)ぼっちとばかにされた」と怒りをあらわにしたことがあったという。しかし、店員同士が自身の東京での生活を「ぼっちだね」と話していただけで、青木容疑者が誤解した可能性が高いとみられる。
ある捜査幹部は「『ぼっち』という言葉に過剰に反応してしまう状態だったのではないか」とみる。
約10年前には、地元の伝統文化を継承する団体に入ったが、そこでも他のメンバーと積極的に関わる様子は見られなかったという。当時の様子を知る男性(45)は「酒席でメンバーと雑談になっても、(青木容疑者は)自分から物を言わない。口数が少なく、喜怒哀楽を見せるタイプではなかった」と振り返った。
活動で担当した笛は熱心に練習していたが、加入から数年後に団体からは離れたという。ちょうどまとめ役のような立場になる時期だったといい、男性は「人と接する機会が増えることが面倒だったのかもしれない」と推測する。
また、男性が「青木容疑者が普段より冗舌になり笑顔を見せた」と印象に残っているのが、猟銃についての会話になった時だった。鳥を撃ちに行くことなどを語っていたという。
青木容疑者は15年から許可を取り、事件当時は猟銃など4丁を所持していた。事件には、殺傷能力の高い「スラッグ弾」が使用された可能性がある。現場周辺は田畑が広がる地域だが、イノシシなどによる目立った被害はないといい、男性は銃の所持を「不思議に思っていた」と話した。
事件を巡っては、捜査本部が襲撃に使われたナイフを含め、複数のナイフを押収していたことも、捜査関係者への取材で判明した。【鈴木英世、井上知大、白川徹】