平木省氏(48)と荒井正吾氏(78)への推薦対応を巡り分裂状態になった自民党奈良県連は、その隙(すき)を突かれる形で日本維新の会の山下真氏(54)に知事の座を奪われた。候補者調整に課題を残した県連内では、高市早苗会長への恨み節も聞かれる。
「候補者を一本化できなかったことが最大の敗因だ」。県連の井岡正徳幹事長は10日、選挙戦をこう総括した。
県連は昨秋に高市氏が会長に就任すると、荒井氏に代わる候補者の選定を模索し始めた。これまで支援してきた荒井氏は高齢多選への批判が懸念され、勢いを増す維新が候補を擁立した場合は厳しい戦いを強いられると見込まれたからだという。高市氏は、自身が総務相時に大臣秘書官を務めた平木氏の擁立を主導。平木氏は2022年末に出馬に踏み切った。
こうした動きが進退を決めかねていた荒井氏の反発を招き、年明けの立候補表明につながった。県連は平木氏の推薦を決めたが、納得しない一部の県議らは荒井氏支援に回った。ある県連関係者は「自民党を応援してくれている人からも『一体、県連は何をやってるんや』とあきれられた」と嘆いた。
高市氏は、放送法が定める「政治的公平」の解釈に関する総務省の行政文書を巡る国会対応もあり、選挙戦最終盤の7日まで地元に入れなかった。この日、平木氏の集会に駆け付けた高市氏は「厳しい選挙。協力して平木さんを押し上げてほしい」と集まった支援者に訴えたが、最後まで県連をまとめることはできなかった。
演説の中で高市氏は、自身が当初、平木氏の出馬に消極的だったと言及。一方で県連として荒井氏を推さなかったのは「(落選して)恥をかかせないためだった」などと語った。演説を聞いた県連関係者の一人は「自分は悪くないと正当化しているように感じた」と残念がった。投開票日の9日も平木氏の事務所には姿を見せず、平木氏の落選が確実になった後に「有権者の審判を真摯(しんし)に受け止め、まずは統一地方選の後半戦に向けた準備を着実に進めてまいります」とコメントを出しただけだった。
保守層の支持が平木、荒井氏で分かれる形になり、維新の山下氏が「漁夫の利」を得る結果になった。ある県議は「維新に勝つために動いた高市さんのやり方が、結果的に維新を利することになった」と皮肉った。県連幹部の一人は「会長の辞任は当然で、執行部も総替えするぐらいでないと次の大きな選挙は勝てない」と危機感をあらわにした。【久保聡】