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突然「戦争になりそうだ」 還暦過ぎた写真家の背中を押したDM


 還暦を過ぎた男性を変えたのは「There is a threat of War(戦争になりそうだ)」とのダイレクトメッセージ(DM)だった。【後藤豪】

ロシア侵攻後に投稿が途絶える

 東京都世田谷区の田中雅(みやび)さん(62)は10年ほど前からインスタグラムを使っている。写真家として活動していた自身の作品が世界中の人の目に留まる可能性があり、ホームページのような使い方ができると思ったからだった。

 実際は、他人の投稿を見ることが中心となった。2018年ごろ、「どこにでもいそうな若い女性」の写真に目が留まった。ウクライナの大自然を背景にした自撮りや、奇抜なヘアメーク。東欧の文化や若者の生活を知ることができると感じて、何気なくフォローした。

 22年2月に突如、この女性から「戦争になりそうだ」とのDMが届いた。これまで交流がなかったため、返信をしなかった。女性の投稿は数日後、地下鉄の写真をアップしてから途絶えた。

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まった翌日の2月25日。田中さんは初めて、独学で身につけた手法によるデジタルアートを投稿した。「GIVE PEACE A CHANCE(平和を我らに)」と描き、背景に青と黄色のウクライナ国旗をあしらった。

 ごく普通の市民が突然、日常を奪われたことにショックを受け、理不尽さを感じた。女性と個別に連絡を取ることよりも、作品の投稿で「エールを送ろう」と考えたという。

海外の展覧会に出品

 「No War」「Stop War」

 その後も反戦を強く打ち出した作品の投稿を続けた。

 5月、イタリアのギャラリーから「あなたの作品に関心があるので展覧会に出品しないか」と、DMが来た。1投稿あたりへの「いいね」の数は70ほどだったこともあり、半信半疑で「私で合っていますか?」と問い合わせた。すると、「そうです。締め切りが迫っているので早く決断を」と促すメールが届いた。

 イタリアで開かれた展覧会に出品。12月には、スペインでの展示会にも参加した。26年にアメリカで開かれる個展のオファーも受けた。

 「海外から声がかかったことに驚いています。国境や地理的な距離にとらわれないインスタグラムの力だと思います」と話す。

DM受け取り「踏ん切りついた」

 田中さんは長らく、写真家として活動していた。

 1991年1月、米軍中心の多国籍軍がイラクを空爆して湾岸戦争が始まった際、自費で北アフリカに飛んだ。モロッコとアルジェリアの国境付近で出会った少年に「今、一番好きな言葉」を尋ね、スケッチブックとペンを渡した。そして、「PEACE(平和)」と書かれた紙を写真に収めた。

 この写真が世に出ることはなかった。「(自分は)イスラム教、ユダヤ教もキリスト教のことも全然分かっていないのに写真で表現していいのか。そもそも、どこに向かって『戦争反対』を訴えかけているのか」と疑問を抱いていたからだった。

 阪神大震災(95年)や東日本大震災(2011年)では、ボランティアとして炊き出しを手伝うのと同時に、被災地を写真に収めた。だが、発表はしなかった。

 広告やファッション誌の写真など、生計を立てるための仕事を続けていたものの、報道写真を発表する自信がなかった。田中さんは「今まで、葛藤する自分との折り合いを付けるために無駄に時間を費やしてきた」と振り返る。

 今回、ウクライナ人女性からDMを受け取ったことで「まず行動を起こしてみようと思えた。この年になってようやく踏ん切りがついたんです」と話す。

 女性は、田中さんの作品に「いいね」をよせ、2月には「あなたの投稿 すべてに感謝しています」といったDMが届くなどやり取りが続いているという。

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