控訴審の結論は「死刑」から一転し「無期懲役」だった。福島県三春町の国道で2020年5月、面識のない男女2人をトラックではねて殺害したとして、殺人罪などに問われた住居不定、無職、盛藤(もりとう)吉高被告(53)に対する16日の仙台高裁判決。「刑務所に長くいたい」という身勝手な動機で落ち度のない2人の命が奪われた現実を前に、法廷は重苦しい雰囲気に包まれた。
白いシャツと紺色の上着を着用しジーンズをはいた被告はマスクをしながら、うつむいたまま入廷した。深沢茂之裁判長に名前を確認されると、うなずくだけだった。
「主文 原判決を破棄する。被告人を無期懲役に処する」。裁判長の声が法廷に響いた。被告はほとんど顔を上げることなく、判決理由を聞いていた。
1審・福島地裁郡山支部の裁判員裁判による判決(21年6月)は求刑通り死刑だったが、2審判決では、死刑の選択が真にやむを得ないものかどうかが検討された。
深沢裁判長は、被告がなじみのない土地や未経験の仕事などへの不安から、長く刑務所に入っていたいと考えた犯行だと指摘した。そのうえで「身勝手で自己中心的だが、自棄的な考えでトラックを2人くらいに衝突させようとしたもので、他人の生命を侵害すること自体から利益を得ようとしたわけでもなく場当たり的で稚拙」などと認定し、死刑を回避した。
判決を言い渡した後、深沢裁判長は「無期懲役も相当に重い刑で、改めて責任を感じてほしい。2人が亡くなったことは紛れもない事実。冥福を祈り続けるようにしてください」と説諭した。被告は裁判長の言葉に終始うなずくだけだった。
判決を受け、取材に応じた弁護士は「量刑不当が認められ、死刑が回避できた点は納得している」と話した。
仙台高検の山﨑耕史・次席検事は「判決内容を検討の上、適切に対応したい」とコメントした。【松本ゆう雅】