東京オリンピック・パラリンピックの大会運営を担った組織委員会大会運営局の元次長が、日本陸上競技連盟からの出向終了直後に、談合疑惑があるテスト大会の業務を落札した企業と顧問契約を結び、顧問料を得ていたことが関係者への取材で判明した。元次長と落札企業はともに談合事件で東京地検特捜部の家宅捜索を受け、その後に契約は途中解除された。専門家は「『みなし公務員』の組織委職員には高い倫理観が求められる。癒着との疑惑を招きかねず、法令順守の面から問題」と指摘する。
元次長と顧問契約を結んでいたのはイベント会社「セレスポ」(東京都豊島区)。陸上競技の大会運営を得意とし、組織委が2018年に発注したテスト大会26件の計画立案業務では、陸上競技の会場となった国立競技場(新宿区)など5件を計1億1590万円で受注した。落札件数、金額とも落札企業9社の中でトップだった。
一方、組織委大会運営局は東京都や民間企業からの出向者が多く、陸連出身の元次長は他の出向者をとりまとめ、テスト大会の運営を統括する立場だった。部下にはセレスポからの出向職員もいた。元次長は東京五輪・パラが閉幕して約半年後の22年3月末、組織委への出向を終えたが、陸連に復帰することなく退職。同年4月から1年契約でセレスポ顧問となった。顧問契約は「定期的なアドバイス」が業務内容で、元次長は同月、千代田区にコンサルタント会社を設立した。
特捜部と公正取引委員会は22年11月25日に独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で元次長の自宅とセレスポ本社を家宅捜索し、セレスポは同月末、元次長との顧問契約を終了した。
セレスポの関係者は取材に、元次長から実際に業務に関するアドバイスはなかったとした上で「(顧問契約は)元次長が陸連を退職して、次の進路が決まるまでの間、籍を置いてもらう趣旨だった。顧問料の金額は言えないが、大きな金額ではない」と証言した。セレスポの広報担当も元次長への報酬額は非公表とし、契約終了については「元次長から22年10月に自身の活動に注力していくと申し出があった。談合の報道とは無関係」とコメントした。
特捜部は元次長が談合に深く関わったとして独禁法違反容疑で立件する方針を固めており、セレスポも談合に加わったとして担当者から任意で事情を聴いている。関係者によると、元次長は談合容疑を否認している。セレスポ幹部は31日の取材に「談合はなかったという認識だ」と答えた。
スポーツ法やコンプライアンス(法令順守)に詳しい岡筋泰之弁護士は「国は不公正な行為を防ぐため、五輪・パラ特別措置法で組織委職員を『みなし公務員』にした。『李下(りか)に冠を正さず』で、組織委で権限を果たしたという自覚があるのならば、特定企業との関係が疑われるような行為は控えるべきで、落札企業との顧問契約は不適切」と話す。【二村祐士朗、井口慎太郎、松尾知典、島袋太輔】