厚生労働省の最新調査※3によると、日本でも大学生の抑うつ症状の増加が懸念されており、大学生の死因の1位は自殺で、学業不振、進路の悩み、孤立感などとの関連が報告されています。さらに、新型コロナパンデミック以降は新たなストレスが発生していることが報告されています※4。
メンタルヘルスの不調は、睡眠時間、食生活、運動不足などの不健康な生活習慣と密接に関わります。このことから、大学生のストレス軽減のため、健康や生活習慣などの指導・介入が重要視されています。
【研究の概要】
この研究は18歳から35歳の大学生を対象に、介入群(くるみの摂取群)、または対照群(くるみを摂取しない非介入群)のいずれかに無作為に振り分け、16週間にわたって行われました。介入群には、あらかじめ分包されたくるみを提供し、1日に1包(約56g)を摂取してもらいました。
対照群には、試験期間中はあらゆる種類のナッツ類や脂肪分の多い魚の摂取を控えてもらいました。
参加者は、研究期間中、血液と唾液の検体を3回提出し、メンタルヘルス、気分、一般的な健康状態、睡眠習慣に関する自記式質問票に回答しました。また、参加者の一部は糞便検体も提出しました。各群30名、合計60名の参加者が研究を完了し解析対象とされました。
【くるみの摂取に有望な結果】
介入群と対照群との間にいくつかの評価指標に有意差が認められ、介入群の学生はくるみの摂取によって、学業ストレスにより生ずるメンタルヘルスへの悪影響が軽減されたと感じていたことがわかりました。研究結果の概要を、以下にまとめます。
【くるみの摂取が大学生のメンタルヘルスおよび一般的な健康状態に及ぼす影響】
・毎日くるみを食べることで、メンタルヘルス関連のスコアとストレス・うつ病のスコアの有意な変化が抑制されたことから、大学生の学業ストレスがメンタルヘルスに及ぼす悪影響がくるみの摂取によって軽減されたと考えられる。
・毎日くるみを食べることで、総タンパク質とアルブミンレベルが上昇したことから、学業ストレスが代謝物バイオマーカーに及ぼす悪影響が軽減されたと考えられる。
・コルチゾールやα-アミラーゼなどのストレスバイオマーカーの値が、学業ストレスによって変化することはなかったが、毎日くるみを食べることでα-アミラーゼが低下した。このことからも、くるみの摂取によってストレスの影響が軽減されたと考えられる。
・学業ストレスは、女性における腸内細菌叢の多様性の低下と関連していた。学業ストレスによるこの悪影響は、毎日くるみを食べることで軽減されたと考えられる。
・くるみの摂取は長期的な睡眠の改善につながったと考えられる。
上記のほかに、観察研究と臨床研究から得られている知見と今回の研究結果から、くるみの摂取には心身の健康と以下のような関連性があることが示唆されています※5-7。
・抑うつ症状のある人の有病率や罹患率の低下(米国の成人を対象とした研究)
・健康な若年成人での気分状態の改善
・メンタルヘルスを含む総合的健康指標の加齢に伴う低下の抑制
これらの研究で見られたメンタルヘルスに対する有益な効果は、くるみに含まれる生理活性作用を持つ栄養素とファイトケミカル(植物性化学物質)のユニークなマトリックスによるものと考えられます※8。
この点について、Bobrovskaya氏は次のように説明しています。「裏付けとなるさらなる研究が必要ですが、健康的な食事パターンとして、植物性オメガ3脂肪酸のα-リノレン酸(ALA)*を豊富に含んでいるくるみを摂取することは、認知機能とメンタルヘルスに良い影響を与えることが、エビデンスによって明らかになりつつあります」。
「さらに、脳がセロトニン(天然の精神安定剤ともいえる)を生成する際に使うトリプトファンが食事によって多く取り込まれると、不安やうつ症状が軽減されることが、研究によって明らかになっており、くるみに含まれるトリプトファンの存在も、これらの結果に寄与している可能性があります※9」。
なお、今回の研究にはいくつか解釈上の限界点が存在します。まず、この研究は盲検化されておらず、参加者はくるみを摂取するという介入がなされていることを知っていたことです。さらに、2020年における新型コロナウイルスの世界的パンデミックやそれに伴う在宅指示が、結果に影響を及ぼした可能性があります。
くるみを含む食生活が脳やメンタルヘルスに影響を及ぼす複雑な経路に対して理解を深めるためには、さらなる研究が必要です。一方で、毎日の食生活にくるみを加えることは、大学生の脳の健康と一般的な健康状態を維持・改善するために、簡単に取り入れることができるアプローチの一つとなり得るかもしれません。
今回の報告では、くるみがストレスや睡眠を改善する可能性が示されていますが、そのメカニズムが、くるみの摂取により腸内環境が改善したためか、くるみに含まれるオメガ3脂肪酸やトリプトファンが作用したのか、それらの相乗効果なのかについては、今後の研究に委ねられています。
もっとも、大学生だけでなく生活習慣が不規則になりがちな日本人にとって、くるみが腸内環境を整える食生活の一つの選択肢になり得るとは言ってよいでしょう。今回の研究で摂取されたくるみ1日約56gは日本人にとって多いため、腸内環境を整えるヨーグルトにくるみを加えるなど、他の食材と組み合わせて摂取するのもおすすめです」。
【参考資料】
※1. Herselman MF, et al. The effects of walnuts and academic stress on mental health, general well-being and the gut microbiota in a sample of university students: A randomised clinical trial. Nutrients. 2022;14:4776.
※2. Stress in college. The American Institute of Stress website. https://www.stress.org/college-students. Accessed November 30, 2022.
※3. 厚生労働省 令和3年度 大学における死亡学生実態調査報告書
※4. Shiratori Y, et al: A longitudinal comparison of (C)ollege student mental health under the COVID-19 self-restraint policy in Japan JAD Reports 8, April 2022, 100314 doi.org/10.1016/j.jadr.2022.100314
※5. Freitas-Simoes TM, Wagner M, Samieri C, Sala-Vila A, Grodstein, F. Consumption of nuts at midlife and healthy aging in women. Journal of Aging Research. 2020;5651737.
※6. Arab L, Guo R, Elashoff, D. Lower depression scores among walnut consumers in NHANES. Nutrients. 2019;11(2):275.
※7. Pribis P. Effects of walnut consumption on mood in young adults-a randomized controlled trial. Nutrients. 2016;8(11):668.
※8. Nutrients in one ounce of walnuts. California Walnut Commission website. https://walnuts.wpenginepowered.com/wp-content/uploads/2020/05/Nutrients-In-1OZ-Handout_Update.pdf. Accessed November 30, 2022.
※9. Lindseth G, et al. The Effects of Dietary Tryptophan on Affective Disorders. Archives of Psychiatric Nursing. 2015;29(2): 102-107.
*くるみはナッツ類の中で唯一、植物性オメガ3脂肪酸であるアルファ(α-)リノレン酸を多量に含んでいます(30g当たり2.7グラム)
【参考】
※公式サイト
https://www.californiakurumi.jp/