介護の現場を支える外国人職員が増えるなか、採用した後のサポートも大切な課題となっています。言葉や文化の違いを乗り越え、安心して働き続けるためには、仕事に必要な日本語を学ぶ機会だけでなく、悩みを分かち合える仲間の存在も欠かせません。長野県松本市では、そんな外国人介護職員の「採用後」に目を向けた取り組みが進められています。
松本市が2026年8月に開始したのは、外国人介護職員を対象とする日本語学習支援事業です。オンライン授業で介護現場に必要な日本語を学びながら、対面で交流する機会も設けています。10月4日には初めての対面交流授業が開催され、4か国から28人が参加。グループワークや松本城の見学を通じて、職場を越えた交流が生まれました。
日本語を学ぶことが、仕事への自信や新しい仲間との出会いにつながっていく。単なる語学学習にとどまらないこの事業には、外国人職員が「これからもこのまちで働きたい」と思える環境をつくろうとする松本市の思いが込められています。
介護を支える外国人職員たち、その先に見えてきた課題

高齢化が進む日本では、介護を必要とする人が増える一方で、現場を支える人材の確保が大きな課題となっています。長野県松本市でも、2026年10月1日時点の高齢化率は29.1%に達しており、今後も上昇が見込まれています。厚生労働省の推計では、全国で必要とされる介護職員数は2022年度の約215万人から、2040年度には約272万人に増える見通しです。こうした状況のなか、外国人介護職員の存在は、地域の介護を支えるうえでますます重要になっています。
松本市では、外国人介護人材を受け入れるための仕組みづくりを進めるとともに、採用後も安心して働き続けられる環境の整備に取り組んでいます。しかし、外国人職員を迎え入れるだけですべての課題が解決するわけではありません。市内425の介護事業所を対象に実施した調査では、回答した事業所のうち26事業所が外国人を雇用しており、その約半数にあたる12事業所が「言葉・意思疎通」を課題として挙げました。また、回答した150事業所のうち82事業所が、行政に望む支援として「日本語学習支援」を挙げています。
介護の仕事では、利用者への声掛けはもちろん、職員同士の申し送りや介護記録の作成など、正確なコミュニケーションが欠かせません。日常会話ができても、専門用語や日本語特有の遠回しな表現に戸惑うこともあります。言葉が十分に伝わらなければ、仕事を教える側も教わる側も、思うように意思疎通ができなくなってしまいます。
大切なのは、外国人職員を採用することだけではなく、その後も職場で力を発揮できるよう支えていくこと。松本市が進める日本語学習支援には、こうした介護現場の声が背景にあります。
言葉の壁を越えて、安心して働ける場所へ|松本市の日本語学習支援

外国人介護職員が仕事に必要な日本語を身につけ、地域で安心して働き続けられるように。そんな思いから、松本市は2026年8月、外国人介護職員を対象とした日本語学習支援事業をスタートさせました。事業を担うのは、学校法人秋桜会 丸の内ビジネス専門学校。2027年1月までの約半年間、オンライン授業と対面交流授業を組み合わせた全24回の学習支援を無料で実施しています。
参加しているのは、市内の介護事業所などで働く5か国45人の外国人職員です。授業は事前のテストによって初級・中級・上級の3クラスに分かれ、それぞれの日本語能力に合わせて進められています。学ぶ内容も、単なる日常会話ではありません。介護専用の教材を使い、利用者への適切な声掛けや、職員同士で情報を引き継ぐ「申し送り」の書き方など、実際の仕事で役立つ日本語を学んでいます。

授業では、実際の介護場面を想定して会話を練習するロールプレイも取り入れられています。講師を務める教員グループ長の佐藤佳子先生は、独学でも日本語は勉強できる一方、コミュニケーションを身につけるには人と関わる「場」が必要だと話します。授業では、国籍や職場が違っても同じ介護の仕事に携わる仲間として、間違いを恐れず積極的に発言できる温かな雰囲気が生まれているそうです。
言葉を覚えるだけでなく、実際に使いながら自信を育んでいくこと。そして、同じ仕事に向き合う仲間と学び合えることも、この事業の大きな特徴です。日本語の上達を支える学びの場が、職場を越えたつながりを生むきっかけにもなっています。
画面越しの仲間と初対面!笑顔がつないだ交流のひととき

2026年10月4日、松本市の日本語学習支援事業で初めてとなる対面交流授業が開催されました。それまで9回のオンライン授業を重ねてきた受講者たちにとって、仲間と直接顔を合わせる初めての機会です。当日は、ミャンマー、インドネシア、フィリピン、中国の4か国から、10事業所に所属する28人が参加。普段はそれぞれの介護現場で働く職員たちが集まり、グループワークを通じて学びを深めました。

参加者の一人、ミャンマー出身のSawThingyanHtweさんは、介護の仕事における声掛けの大切さを語っています。利用者にとって、何も言わずに身体に触れられることは不安につながる場合もあるため、言葉で伝えることが重要だといいます。また、事故を防ぐための申し送りノートについても、日本に来たばかりの頃は漢字が難しく、内容を理解するのに苦労したそうです。その言葉からは、介護現場で働く外国人職員が日々向き合っている課題が伝わってきます。

授業後には、参加者たちが松本城を見学し、交流を深める時間も設けられました。なかでも印象的なのが、インドネシア国籍の受講者たちの声です。施設の外で同じインドネシア出身の人と会うのは初めてだったそうで、さまざまな話ができた喜びを語っています。日本語を学ぶために集まった場所が、母国語で気兼ねなく話せる仲間との出会いにもつながりました。
仕事をする場所も、育ってきた国も違う。それでも、同じ介護の仕事に携わる仲間として言葉を交わし、交流を深められることには大きな意味があります。日本語を学ぶ時間だけでなく、こうした人と人とのつながりも、慣れない土地で働き続けるための心強い支えになっていくのではないでしょうか。
「これからもこのまちで働きたい」松本市が目指す未来

松本市の日本語学習支援事業は、2027年1月まで続きます。12月20日には2回目の対面交流授業が予定されており、オンラインでの学習と直接顔を合わせる機会を重ねながら、介護現場で必要な日本語力の向上を目指します。事業の終了時には、学習への参加状況などを踏まえ、修了証も交付される予定です。
今回の取り組みでは、授業を実施するだけでなく、その成果を確かめることも大切にしています。受講前後のテストやアンケートを通じて、日本語力がどの程度向上したのか、学んだ内容が実際の介護現場でどのように役立っているのかを確認する方針です。学習の成果を振り返ることは、受講者自身が成長を実感する機会にもなるかもしれません。
松本市高齢福祉課で本事業を担当する大塚留誠さんは、外国人介護人材を採用するまでにはさまざまな過程がある一方、採用後の定着に悩む事業所もあると話します。そして、この事業を通じて仲間ができ、外国人職員に「これからもこのまちで働きたい」と思ってもらえたらと願っています。その言葉には、人材を確保することだけでなく、一人ひとりが地域で安心して暮らし、働き続けられる環境をつくりたいという思いが感じられます。
松本市では、外国人住民を単に支援を受ける存在としてではなく、ともに地域をつくる担い手と位置づけ、多文化共生のまちづくりを進めています。介護の現場で働く外国人職員もまた、地域の暮らしを支える大切な一員です。今回の取り組みは、そうした松本市の姿勢を具体的な形にしたものといえるでしょう。
言葉を学ぶことから始まる、人と人がつながるまちづくり
慣れない言葉や文化のなかで働くことは、決して簡単なことではありません。それでも、困ったときに相談できる仲間がいたり、自分の言葉が相手に伝わる喜びを感じられたりすることで、日々の仕事や暮らしへの向き合い方も少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
松本市が進める日本語学習支援事業は、介護現場で必要な言葉を学ぶだけでなく、外国人職員が地域の一員として安心して働き続けるための取り組みでもあります。国籍や文化の違いを越え、ともに支え合える関係を育んでいくこと。その小さな積み重ねが、誰にとっても暮らしやすい地域づくりにつながっていくのかもしれません。
松本市 概要

長野県のほぼ中央に位置する松本市は、国宝松本城をはじめとする歴史・文化と、豊かな自然に恵まれたまちです。標高約600メートルに位置し、美しい山々に囲まれた環境のなかで、地域の特色を生かしたまちづくりを進めています。また、「第4次松本市多文化共生推進プラン」に基づき、外国人住民を地域社会の担い手として位置づけ、国籍や文化の違いを越えて誰もが安心して暮らせる地域づくりに取り組んでいます。
公式サイト:https://www.city.matsumoto.nagano.jp/
