ロバート・クルツバン著『だれもが偽善者になる本当の理由』によると「本当の自分というものは存在しない」そうです。
■「一貫性のある本当の自分」というものは存在しない
本書は進化心理学をベースに「人間の道徳や偽善の正体とは?」ということを探る内容となっていますが、大きな前提として、「人間の心はモジュールでできているので一貫性なんて無い」ということがあります。
わたしたちの心は、複数のアプリから成り立つiPhoneのようなもので、統一された「わたし」というものは存在しないというのです。
心のアプリには、たとえば「エネルギーがなくなったら腹が減るアプリ」や「素敵な異性を見ると飛びつきたくなるアプリ」など、無数の種類があり、それぞれが勝手に自らの仕事をしています。
しかし、「意識」アプリには、他のアプリの動きを把握する機能がついてないので、しばしば「何であんなことをしたのかが自分でもわからない!」という事態が起きるわけですね。
本書ではさらに「一つひとつのアプリが『本当の自分』なのだ」と強調するとあり、興味深いところです。
心の部位の多くは、ある意味で互いに異なる「さまざまな自己」と見なすことが可能であり、それ自身に割り当てられた機能を果たす。(中略)
「さまざまな自己」のあるものはあなたに朝のジョギングをさせ、別のあるものは、あなたをベッドに釘づけにする。また、あなたを賢くするものもあれば、無知にするものもある。しかもあなたは、その多くに気づかない。これらの「さまざまな自己」は、あなたの気づかぬ場所で、設計されたとおりに機能しているだけなのだ。
■目の錯覚も「複数の自己」によって起こる
その代表例が「目の錯覚」で、以下の画像はAとBのタイルが同じ色なんですが、そうと知ってもやっぱり違う色に見えてしまいます。
これは、「タイルの色が同じだという知識を保存するアプリ」と「タイルの明るさを自動で調節するアプリ」が同時に起動してしまうためなんですね。
このように、一つひとつのアプリが本当の自分ということは、自己がたくさんあるということ。 ということは「自己評価」という基準自体も成り立たなくなるということです。
著者によると、
脳は機能を果たすために進化したことを少しでも考慮に入れれば、自己評価が何も説明しないことはすぐにわかるはずだ。心は、自己評価のために設計されている(つまり自己評価を高めるよう「動機づけられている」)のではなく、心のシステムは、腹一杯食べること、評判、セックスなどの、適応に関連する状況を改善するために進化したのである。
とのこと。これは、「アナと雪の女王」でいうところの「ありのままの自分」問題にもつながるところで、自己が無数に存在するんだったら、もともと「ありのままの自分になる」のは不可能ということですね。
■仏教のメソッドで自分の中の矛盾を制御する
ちなみに、本書には「アプリ同士の矛盾」に対抗する方法は書かれてないんですが、HappyWとしてオススメしたいのが仏教の教えを生かしたテクニック。もともと、お釈迦様は「本当の自己なんてない!」と言い続けた人で、「心の動きに抵抗するのはムリ」という結論に達した上で、
1. 瞑想(メディテーション)などを行うことで、”心の動きを観察するアプリ”の機能を鍛える
Googleの研修でも取り入れられている簡単な瞑想でもOK、大事なのは続けることです。
具体的には呼吸に集中して5分。時に外の音などで集中が乱れますが、乱れに気づいたらまた集中するだけです。
瞑想で鍛えると、だんだんと集中力が途切れている自分に気づきやすくなります。
2. 無数のアプリの動きを、できる範囲でよく観察する
瞑想で鍛えた後は日常でも観察を実践です。
3. 人間の心は制御できないという事実に脳を慣らす
感情の爆発は直ぐに制御するのは難しいですね
4. 自分の心に全面降伏できるようになる
5. 解脱(げだつ)!
といったメソッドを提唱しています。仏教版の「ありのまま」といったところでしょうか。4や5はともかく、1~2については取り入れやすいことだと思います。ただ、「自己」の幻想はかなり強いもので、2が色々な場面で出来るようになるには相応の努力が必要になりますが、一つの道筋としてご紹介しました。
そんなわけで、『だれもが偽善者になる本当の理由』は、心の仕組みに興味がある方にオススメ。「自己」や「道徳」に関するモヤモヤをスッキリさせてくれる一冊です。
Photo:Example Of 3D Sidewalk Art: The Artist Reaches For His “Box Of Chalks”! By RedRoseRattus
Licensed material used with permission by PaleolithicMan
心のスイッチ、見つけよう -HAPPYW(ハッピーウー)-