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【ブランドピックアップ~Nigel Cabourn~】ナイジェルが残した功績と、受け継がれていくブランドの未来。



英国を代表するデザイナー、ナイジェル・ケーボンが今年6月、この世を去った(R.I.P.)。ヴィンテージミリタリーウエアの収集家でもあった彼の生い立ちから、半世紀以上にわたって残した服と思想、そして受け継がれていくブランドのこれからを追った。


ヴィンテージをこよなく愛し、ミリタリーやワークウエア、探検服など膨大なアーカイブを収集していたナイジェル・ケーボン。それを着ていた人物や、その服が使われた歴史的背景などからインスピレーションを得て、現代の服へと落とし込んでいた。


盟友との出会い、ギアとしての服との出会い、デザイン、そして未来へ。


ナイジェル・ケーボン

2026年 6月、ナイジェル・ケーボンがこの世を去った。ヴィンテージミリタリーやエクスペディションウエアをベースに、英国のモノづくりと歴史を現代の服へとつなぎ続けたデザイナー、ナイジェル・ケーボン。彼が残した服には、単なる「デザイン」では語りきれない、それぞれの時代や人物、そして実際にその服を必要とした人々の物語が刻まれている。


なぜ彼はこれほどまでにヴィンテージに惹かれ、ミリタリーウエアや冒険家たちの装備をデザインの源泉とするようになったのだろうか。その原点を辿ると、そこには60年代の英国で青春を過ごしたひとりの若者の姿がある。49年、イギリス・リンカンシャー州スカンソープに生まれたナイジェル・ケーボン。幼少期から過ごしたのは、イングランド北東部のピーターリーという街だった。父親は郵便局員。そんな彼がファッションデザイナーになるきっかけとなったのは、60年代という特別な時代だった。


当時のイギリスでは、音楽やアート、ファッションが大きく変化していた。ザ・フーやスモール・フェイセスをはじめとする音楽、フラワーパワーやスウィンギング・シックスティーズのカルチャー。ナイジェルはその真ん中で青春を過ごした。本人も「私がこの時代の英国に生まれたことは幸いだった」と24年に刊行された自伝で振り返っている。67年、ニューカッスルのアートカレッジへ進学。ここで服づくりを学びながら、69年には自身のブランド「クリケット」をスタートさせる。ブランド名は英国の伝統的なスポーツ、クリケットから。ルーズなフレアパンツやキャンバスジャケット、ハリスツイードのスリーピーススーツなど、当時のポップカルチャーから刺激を受けた服をつくり、ビジネスは順調に成長していった。


そんなナイジェルの人生を決定的に変えたのが、78年。友人だったポール・スミスが、パリの蚤の市で見つけたヴィンテージの英国空軍フライトジャケットをナイジェルに贈ったのだ。「君がつくるべきものはこれだ」。その言葉を受けたナイジェルは、翌日ポールに連れられてパリのクリニャンクールへ。そこで初めて本格的にヴィンテージウエアと向き合い、その奥深さに魅了される。以来、ナイジェルにとってヴィンテージは単なる古着ではなく、デザインの教科書になった。中でも特に惹かれたのが、ミリタリーウエアだった。そこには、なぜこの生地なのか、なぜこのステッチなのか、なぜこのディテールなのかという、すべてに理由があるからだ。


さらに、その服が実際に戦場や極地で使われたという「物語」もある。第一次・第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争。そしてエベレストや南極探検。ナイジェルはそうした歴史の中に残された衣服を収集し、そこからデザインの着想を得ていった。そのなかでも大きな意味を持ったのが「ベンタイル」との出会いだった。英国空軍のパイロットを雨や寒さから守った高密度のコットン生地。その機能性と経年変化に惹かれたナイジェルは、いち早くファッションに取り入れ、やがてベンタイルは彼の代名詞となっていく。79年には、パリのメンズウエア展示会で、わずか35ポンドほどだった初期のアウターウエアが4日間で25万ポンドもの注文を獲得。翌80年には、世界に向けたブランド展開を見据え、「ナイジェル・ケーボン」へとブランド名を変更した。


しかし、彼のデザインの核心は「ファッション」そのものではなかった。00年代初頭、エドモンド・ヒラリー卿のエベレスト初登頂50周年をきっかけに、ナイジェルは53年のエベレスト登頂、そして58年の南極探検に強く惹かれていく。ニュージーランドまで足を運び、ヒラリー本人に会おうとしたほどだったという。その際に目にした探検隊のパーカから生まれたのが、現在まで続く代表作「エベレストパーカ」である。これをきっかけに、ナイジェル・ケーボンというブランドそのものが再定義された。


歴史上の人物、ヴィンテージウエア、ミリタリー、ワークウエア、エクスペディション。そして、それらを支える本物の素材。ナイジェルにとって服とは、流行を追うものではなく、過去に存在した「本当に必要とされたモノ」を掘り起こし、自分なりに未来へつなげることだったのだ。そして、その「未来へつなげる」という姿勢は、服づくりだけに向けられたものではない。長年ナイジェル・ケーボンとリレーションシップを築いてきたアウターリミッツ社から嬉しい話が聞けた。


「ナイジェルは生前、自分がいついなくなってもブランドが在り続ける体制を考えていました。だから、これからもブランドは変わらず生き続けます」(アウターリミッツ)。彼が残した膨大なヴィンテージのコレクションも、そこから生まれた服も、そして歴史から学び、未来へつなごうとした彼の思想も、これからも受け継がれていくと思うと胸が熱くなる。「私はつねに、本物で美しい英国製の洋服をデザインしようと志してきた」。生前、そう語っていたナイジェル・ケーボン。


60年代の英国で青春を謳歌した少年は、やがて世界中のヴィンテージを集め、歴史を服に変えるデザイナーになった。そして、自分がいなくなったあとも、その服と物語が残り続けるように、未来まで見据えていた。その人生そのものが、ナイジェル・ケーボンというブランドのアーカイブだったのだ。


イギリス・ニューカッスルにあるナイジェルのアトリエ。



イギリス・ニューカッスルのジェスモンドにあるナイジェルのアトリエ。ロンドンを東京にたとえるなら、仙台くらいの位置感だろうか。ここにはアパレルや書籍を合わせ、なんと約4000点ものヴィンテージ資料が眠っている。ナイジェル自身も生前はここで創作活動に励み、現在も英国のデザインチームがここを拠点にしている。


特徴は、なんといっても天井の高さ。その梁に設けられたスペースには大量のヴィンテージウエアが保管され、必要になればハシゴを登って引っ張り下ろしてくる。洋服がところ狭しと並ぶテーブルだが、じつはバタフライ社の卓球台で、ブランドロゴ入りのナイジェル・ケーボンモデルなのだそう。


ちなみにナイジェル・ケーボンには、イギリスのオーセンティックラインや日本のメインラインなど、いくつものラインが存在する。それらをすべて合わせると、シーズンごとに約600SKU、デザイン数にして約250型ものアイテムが生み出されているという。そして、そのシーズンテーマを考案していたのもナイジェルだった。


長年の側近が話してくれたナイジェルの素顔。



「ナイジェルとは、いろんなところへ一緒に行きました。彼は本当に友達が多いんですよ。文字を書くのは苦手でしたが、ヒトと話すのは大好きで、誰とでもすぐ仲良くなる。海と太陽も好きで、ちょっと時間が空くと、ニューカッスルにあるタインマウスというビーチまでクルマで行って、そこでチルする。そして街に戻ってネグローニを飲むんです。コーヒーならフラットホワイト。あと、卓球が好きで、テニスもしていました。ウエイトトレーニングも積極的で、メディシンボールをリュックに入れて持ち歩いていたり。


デザイナーという職業柄もあると思いますが、とにかく自由で、人間味のあるヒト。喜ぶときは思い切り喜ぶし、怒るときは怒る。だから、ボクもナイジェルとは数え切れないくらいケンカというか、ディスカッションをしました。30歳年上の弟がいるような感覚です(笑)。写真からも見てとれると思いますが、お茶目で、ナチュラルなヒトだったんです」。(海外事業部ジェネラルマネージャー 吉田 聖)


Photo/Satoshi Yoshida




ブランドを象徴する色褪せないアーカイブ。


この先も語り継がれるようなモノを数多く残してきたナイジェル・ケーボン。ブランドを二人三脚で育ててきたアウターリミッツのスタッフが所有する愛用品のなかから、名作といえるアイテムを教えてもらった。




MALLORY JACKET(2015)


「英国の登山家ジョージ・マロリーが約100年前に登山で着ていたジャケットをベースにしたもの。肩、肘、ヨークに使われたベンタイルは、リュックの摩擦や動きの多い肘を守るための補強。見た目のためではなく、当時の機能性をそのままデザインにしているところが最高傑作だと思います」。(渡部悠輝 マーケティング部 マネージャー)



ナイジェル・ケーボン

MULTI POCKET VEST(2012)


「直観で選んだ1着。当時サバイバルイエローの色味にひと目惚れ。胸のブロードアローは、群馬のハンドルミシン職人・ハンドラーにお願いしてあとから刺しゅうし、ビーズワックスが抜けた風合いも気に入っています。オーバーベストなのでアウターやTシャツの上にも重ねられる万能選手」。(吉田 聖 海外事業部 ジェネラルマネージャー)



ナイジェル・ケーボン

CAMERAMAN CLASSIC(2012)


「雑誌でナイジェル本人が着ているのを見て心をつかまれ、これをきっかけにナイジェル・ケーボンを知りました。ハリスツイード100周年に作られたカメラマンジャケットで、通常ベンタイルを使う上部がマッキントッシュのゴム引きになったスペシャル仕様。大枚をはたいた思い出の1着」。(遠藤雄司 リテール マネージャー)



ナイジェル・ケーボン

(左) MUNSON B-5 CHUKKA BOOTS(2017)(右) DR. MUNSON BOOTS(2012)


「レッドウィングと別注するブランドは数あれど、木型から起こした“コラボレーション”はナイジェルが初めてで、ほかにないと言われています。右が1度目、左が2度目のコラボで、どちらもマンソンラストを採用。1回目はライナーにハリスツイードを使ったスペシャルモデルなんです」。(菊地泰由 マーケティング部)


ナイジェル・ケーボン

(左)COLD WEATHER PARKA(2012)(中)Nigel Cabourn × Eddie Bauer/CANADIAN VEST(2012)(右)EVEREST PARKA(2013)


ほとんどのファッションアイテムは買ったときが最高地点だが、ナイジェル・ケーボンのアイテムは立ち位置がまったく異なる。長年にわたり、ブランドを共同運営してきたアウターリミッツのスタッフも、ナイジェル・ケーボンに魅了されてきたうちの1人。ブランドのことを知り尽くしているからこそ、触手を伸ばすポイントはきっと違うはず。


実際に、過去に購入した愛着のある逸品を紹介してもらっているが、名作と呼べるアイテムはこのほかにも数多く存在する。そこで、ナイジェルの側近であった吉田さんが所有する愛用品のなかから、ブランドを代表する名作を3点紹介してもらった。


(左)コットンを超高密度に織り上げたベンタイル素材を使用し、高い防水性と気密性を誇る。裏地はハリスツイード。(中)世界初のダウンジャケットを作り、エベレスト遠征隊などの装備を支えたエディー・バウアーとのコラボダウンベスト。(右)1953年にエベレスト初登頂を成し遂げたエドモンド・ヒラリー卿の着用ウエアがベース。高品質なグースダウンを贅沢に使用し驚異的な保温性を実現した、ベンタイルを用いた最高峰ダウンジャケット。


国内最大となる新店舗が表参道に誕生。


6月にナイジェルが旅立ったかと思えば、8月には新店舗が誕生。亡きナイジェルとともに良い物件を探し続けていて、ようやく見つけた念願の場所なのだという。ぜひナイジェルに想いを馳せて訪れてほしい。




8月8日、表参道に新店舗がオープン。じつは、表参道は1980年代に日本で初めてブランドの店舗を構えた、ナイジェルにとって縁の深いエリア。約40坪と関東最大の売場には全レーベルが揃い、ナイジェルが来日時に使っていた自転車や、旧高円寺店から移設した直筆の絵が描かれた壁なども展示。しかもブランド初となるカフェ『NigelCabournCOFFEE』を併設。八王子の『Pappelburg』監修によるオリジナルブレンドや、生前ナイジェルが愛したフラットホワイトが味わえる。




●Nigel Cabourn OMOTESANDO STORE 住所:東京都渋谷区神宮前5-13-2 パインアンダーフラット B1F open:11:00~19:00 tel:03-6450-6159


2026AWも、時代を超えて“残る服”が揃う。


過去の名作をただ復刻するのではなく、そこに宿る機能や知恵を現代的に表現。ゆえにナイジェルの服は流行に左右されず、何年先にも受け継がれていくモノばかり。今季のそんな注目作をピックアップしてご紹介。


ナイジェル・ケーボン

MOUNTAINEER COAT MIX HALFTEX ¥107800


USアーミー山岳部隊のマウンテンコートをベースにした1着。雪上での迷彩となるアイボリーとのリバーシブル仕様になっていて、英国軍のアノラックなどに見られるウッドパーツを採用。米英ミリタリーのクロスオーバーだ。


ナイジェル・ケーボン

CAMERAMAN JACKET ¥264000


1953年、ヒラリー卿の南極探検に同行したカメラマン、ウィルフリッド・ノイチェのジャケットを再現。機材用の大容量ポケットにベンタイルと保温性に優れた英国のムーン生地を組み合わせ、極寒の地に必要な機能を凝縮した1着。


ナイジェル・ケーボン

EXPLORER DOWN JK SHEER CAMO ¥264000


強度に優れたコーデュラナイロンの下からカモ柄が透けて見える独創的なダウンジャケット。ブラッシュストローク、スノー、アルペンと、色ごとに異なるカモ柄を採用し、リサイクルダウンを封入。ボタンが大きく着脱も容易。


ナイジェル・ケーボン

FIELD JACKET FADE CAMO ¥52800


M-42フィールドジャケットをベースに、1枚の生地へ表裏それぞれ異なる柄をプリント。退色しやすい顔料プリントにバイオウォッシュをほどこし、長年着込んだような奥行きある色ムラと、自然なフェード感を引き出している。


ナイジェル・ケーボン

40s FIELD PARKA FADE CAMO ¥74800


英国軍のアノラックをベースに、マウンテンパーカの要素を融合。表裏を1枚の生地への両面プリントで表現し、顔料プリントとバイオウォッシュで長年着込んだようなフェードカモを再現している。雪原での視認性にも配慮。


ナイジェル・ケーボン

EXPLORER DOWN VEST SHEER CAMO ¥96800


強度の高いコーデュラナイロンの下からカモ柄が透けて見える独特のテキスタイルを採用。ブラッシュストローク、スノー、アルペンと色ごとに異なる柄を使い、リサイクルダウンを封入。レイヤードにも映えるダウンベストだ。


ナイジェル・ケーボン

DW PADDED JACKET ¥63800


柔らかさとタフさを兼ね備えた、ウォッシュドコットンキャンバスを使った中綿ジャケット。軽量なパディングでかさばりを抑えながらしっかり保温性を確保し、快適な着心地と耐久性を両立。ユニセックスで楽しめる1着。


ナイジェル・ケーボン

1975 SOUTH WEST FLEECE ¥52800


クラシックなアウトドアスタイルに根ざしたボクシーシルエットのフリース。防風性を高めるコットン製ウインドガードとダブルレイヤーの襟を備え、レトロな佇まいに実用性をプラス。大きめのフロントポケなども使いやすい。


ナイジェル・ケーボン

MOUNTAIN SNAP JACKET ¥60500


機能的なマウンテンアウターに着想を得た中綿ジャケット。ウォッシュドコットンキャンバスにコットンライニングを合わせ、斜めに配した大型ポケットやスナップボタンで実用性をアップ。赤いステッチがさりげないアクセントに。


ナイジェル・ケーボン

50s PARKA – 20.5oz ¥37400


20.5オンスの極厚裏毛を使った定番パーカ。糸にテンションをかけず、リラックスした状態から編み立てることで、着用や洗濯を重ねても型崩れしにくいという利点を持つ。長く着込むほど、その強さを実感できる名作である。


ナイジェル・ケーボン

MEDICAL SHIRT ¥30800


エベレスト・ベースキャンプでの使用を想定し、肩からアームホール、肘までを二重構造にしたヘヴィデューティなシャツ。脇や背中にはアイレットを設け、運動時にこもってしまう熱や湿気を外へ放出。細部まで機能を追求している。


ナイジェル・ケーボン

FATIGUE PARKA HEAVY NEL REVERSIBLE ¥59400


フランスや英国のヴィンテージ手織りリネンラグから着想を得た柄を採用。じっくり見ると、各色に複数の色糸を使っていて、絶妙なオンブレ感を表現しているのが魅力。シャツとは生地の地の目を変え、横使いで仕立てている。


ナイジェル・ケーボン

BRITISH ARMY PANT LOOSE DENIM ¥49500


1940年代の英国軍バトルドレスパンツをベースに、1960年代ローデシア軍の要素をミックスしたデニムパンツ。ピストルベルト用のループを使いやすくアレンジするなど、日本の生活様式に合わせてマテリアルを再構築している。


ナイジェル・ケーボン

MOUNTAIN TROUSERS RIPSTOP ¥57200


フライトパンツのディテールを踏襲し、多彩なポケットやパーツを配したマウンテントラウザーズ。デザインの情報量に対して、ファブリックは意外にも軽量なリップストップを選んでいて、軽快に穿けるバランスに仕上げている。


ナイジェル・ケーボン

50s UTILITY HENLEY HD WAFFLE ¥31900


高密度に編み上げ、型崩れしにくく仕上げたワッフル素材を用いたヘンリーネック。凹凸が肌への接触を抑えつつ空気を含むことで、暑さを逃がしながら高い保温性も発揮してくれる。襟元には航空部隊を彷彿とさせるマークを配した。


Photo/Shouta Kikuchi Report & Text/Naoto Matsumura




(問)アウターリミッツ press@outerlimits.co.jp www.outerlimits.co.jp

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