『スポニチAnnex』によると、お笑いコンビ『ハライチ』の岩井勇気(35)が11月8日に放送されたラジオ番組『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』(ニッポン放送)に出演し、「印税」についてアレコレと語っていたという。
岩井は、2019年に発売したエッセー集『僕の人生に事件は起きない』(新潮社)が累計10万部の売り上げを突破したが、
「いっぱい売れたってなったら、いっぱい(印税が)入ってきてるイメージありますけど、あれでは全然生活できないですよ」
……と吐露。このコメントに対し、同番組のメインパーソナリティを務める放送作家の高田文夫氏(73)は、
「作家はあれで食ってるんだからね、みんな。だから、おれラジオとテレビに出始めたのよ。物書きだけじゃ食えないなと思って。家族なんか養えるわけないだろ、だから両方やったほうがいいと思って。本だけで食える人いないよ。はっきり言って、原稿だけで飯食ってる人は(日本で)5人いるかいないかだよね、村上春樹を筆頭に」
……と「自分の場合」と「作家生活の実情」を例に挙げつつ猛烈なる共感を示し、トークも熱く盛り上がった……らしい。
私も一文筆業者として、このお二人の血がにじみ出るかのごとく切実な訴えに「猛烈なる共感」をおぼえたクチである。まったくもってそのとおりだ、と。
大雑把に言えば、作家印税は平均して一冊1割前後。仮に1000円の本を出版すれば一冊100円が印税となり、10万部売れたとしたら約1千万円の収入が見込める計算になる。
この後追い記事のヤフコメ欄には
「10万部で1000万で生活できない?」
……みたいな皮肉めいた書き込みもあったが、
「そんなの、厳しいに決まってるじゃないですか!」
……と、私は声を大にして主張したい。「一冊の書籍を自分で書いて出版する」ってえのは、ホント並大抵の労力ではないのだ。原則として取材費は自腹。「オーロラの見える街を舞台にした小説を書きたい? じゃあ経費でフィンランドまで取材旅行に行きましょう」「筆が進まない? じゃあ経費で山の上ホテルあたりでカンヅメしましょう。ルームサービスは自由に注文してかまいませんから」……なんて風にホイホイ話が進むのは遠い昔の夢物語──今じゃ絶対にあり得ない。しかも、書籍を執筆している最中は、ほかの仕事もセーブしなきゃいけないので、安定収入も見込めない……。ましてや、よほどの知名度がある“タレント”や実績のある“大作家”でもないかぎり、初版はせいぜい5千部程度で印税は50万円、運良く再販がかかって1万部売れたら御の字で印税百万円、3万部も売れた日には「ベストセラー」扱い……ではあるものの、そのわりに印税はたった3百万円……といった世界である。
では、まがいなりにも「どうにか食えている作家さん」とは、一体どんなヒトたちなんだろう? ザッと思いつくかぎりのパターンを以下に並べてみたので、参考までにご覧になっていただきたい。
・寡作型大ベストセラー作家
村上春樹氏などがこれに該当。長編を一冊出版すれば百万部単位の売り上げが見込めるため、自身の自由なペースによる創作が許される、まさに「(日本で)5人いるかいないか」の稀なケース。おそらく作家を志望する者の大半が理想とする“作家像”だと推測される。もしかすると春樹先生だったら「経費でフィンランドの取材旅行」だって「経費で山の上ホテルでのカンヅメ」だって、まだ「OK」なのかもしれない?
・量産型職人系作家
東野圭吾氏、堂場瞬一氏などがこれに該当? 常人離れした途轍もないエネルギーと自身のなかに確立されている揺るぎないテッパンの“小説フォーマット”を武器に、定期的に淡々と、安定した売り上げを見込める安定した作品を世に送り出す。
・メインの収入は本業で稼ぐ副業型作家
岩井勇気氏はまさにこれに該当。有名な賞を獲って“本業”を潤わせているお笑いコンビ『ピース』の又吉直樹氏や、口頭筆記によってハイペースな出版を果たすホリエモン氏、さらには「教師」や「会社員」……など、まったく執筆とは関係のない職業を本業とする作家……あと、コラムや無記名記事を執筆する傍ら、空いた時間を書籍仕事に回している私とかも、ここに該当する?
・趣味型自費出版系作家
自分の好きなことを自分が好きなペースで執筆し、自費でその作品を出版する。原則としては、出版すればするほど赤字になる。
伊坂幸太郎氏や吉田修一氏や湊かなえ氏……ほか、名だたる“ビッグネーム”は、いわば先述した「寡作型」と「量産型」のちょうど中間くらいに位置しているのではなかろうか。いずれにせよ、けっこうな“売れっ子”でも、印税以外の「映画化」や「ドラマ化」や「講演」や「コメンテーター」……といった“臨時収入”なくして「作家」という職業は、そう簡単に維持することはできないのである。
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