■やさしくて謙虚な人だと思っていたけれど
2歳年下の彼とつきあって1年半ほどになるノリエさん(30歳)。彼はやさしくて謙虚で、あまり自己主張をしないタイプ。一方、ノリエさんは思ったことをそのまま口に出してしまう傾向があるという。
「親しい友人には、『ノリエはキツい』と言われてしまうんです。彼との恋が始まったときは、今回は気をつけようと思っていました。私自身は責めているつもりはないんだけど、相手は責められていると思うような言い方をするところがあるので」
彼はやさしいので、特に傷つけないようにしたいと彼女は思っていた。
ただ、つきあえば誤解が生じることもあるし、慣れてくればつい不満を口にすることもある。
「彼の仕事が忙しくて2週間くらい会えないことがあったんです。私が寂しいと言ったら、ごめんねって。事前に彼からその時期はむずかしいと聞いていたから、文句を言う私がいけないんですが、彼はひたすら謝っていました」
彼女が彼と一緒に行った店に携帯を忘れてきたことがある。すでに店からだいぶ離れていたが、そのときも彼は、すぐに取りに行ってくれた上「僕が気づいてあげられなくてごめん」と謝った。
「そういうことが続くと、この人、自分が悪いわけでもないのにどうしてこんなに謝るんだろうと不思議になってきたんですよね」
ごめんね、は単なる彼の口癖なのかもしれないと彼女は思うようになった。
■首を傾げるようなことも起こって
つきあって1年過ぎたころから、彼からの連絡が減っていった。週末は会っていたが、たまに「今週は実家に帰る」ということも。
「どうして連絡くれないの」と言うと『ごめんね』と。理由を聞いているのに謝るだけですまそうとする。会えないときも『実家に帰るから、ごめんね』って。実家にそれほど重要な用があるのかと尋ねても『ごめんね』でかわされてしまう。そのうち共通の友人から、彼は実は相当なマザコンであること、かなりズボラな性格で友人同士の飲み会も連絡なしにキャンセルすることもある変わり者だという噂を聞いた。
「びっくりしました。だってそれまで1年間、彼は私の前ではいつもきちんとしたいい人だったから。もしかしたら1年で本性を出してきたのかもしれないなと思いました。『ごめんね』連発も言い訳がめんどうだったり、それ以上、口をはさまれたくないからの封じ手なのではないかと」
そういう視点で彼を見ると、確かに『ごめんね』と言うときは、それ以上何も言うなという気配が漂っているような気がしてきたとノリエさんは言う。
「だからつい最近、言ってみたんです。『ごめんねって言えばすべて解決するわけじゃないと思う』『説明もせずにごめんですませるのは傲慢だと思う』と。キツい言い方だったのか、彼は目を見開いて、『ごめんね』って。あなたは本当に言いたいことを私に伝えようとする気持ちがあるの、と問いただしてしまいました」
ノリエさんの言うように、「ごめんね」は、謝罪であり、彼自身の気持ちを伝える言葉ではないのかもしれない。謝って相手の機嫌を損ねないようにしておけば問題にならないと考えているとしたら、確かに「ごめんね」は傲慢につながっていく。謝るより前に、きちんと事実や気持ちをわかるように言ってほしいものだ。それがふたりの仲を深めることにつながるのだから。