■恋愛が怖いんです……
学生時代は軽く淡い恋しかしたことがなかったカスミさん(27歳)。社会人になって、5歳年上の社内の男性とつきあうようになった。
「とはいえ社内は恋愛を推進する雰囲気ではなかったので、つきあっていることは社内では誰にも言えずにいました。私は彼のことが大好きで、でも彼はけっこうモテるタイプだったから嫉妬したりもして。彼はいつも私をなだめてくれたんです。部署が違うので、彼がどのくらい忙しかったかはわかりませんが、それでも週に1回くらいはデートしていました。私はひとり暮らしなので、私の部屋に泊まりに来ることもありました」
いつかは彼と一緒になりたい。そんな思いも抱いていた。彼は仕事の相談にも乗ってくれたし、夏休みには彼女の実家に一緒に行ったこともある。
「それなのにある日突然、彼が結婚するという話が飛び込んできて。社内でも美人と評判の女性が相手でした。噂によると、彼女のお父さんは私たちの勤務先と取引のある大手企業の役員だとか。目の前が真っ白になるってああいうことなんでしょうね」
それを聞いた日、彼女は具合が悪くなって早退した。帰り道で、彼に連絡をとろうとしたがメッセージを送っても電話をかけても応答はなかった。
「それ以来、避けられて避けられて……。どうしても会えないから彼のいる部署を昼休み直前に覗きに行ったんです。そうしたら彼が私を見つけて、あわてて廊下に連れ出されて。『どういうことなの?』と尋ねたら、『そういうことなんだよね』って。『私はどうなるの』と聞くと、『だってオレたち、別に婚約したわけでもないよね』と」
社内の人には秘密のようにしてつきあっていたので、誰かに相談することもできなかったと彼女は涙ぐむ。
■何もできないまま立ち止まって
彼とのことを話していた学生時代の友人たちは、みな一緒に憤ってくれた。中には「彼の上司に訴えてみたらどう?」と言ってくれる女友だちもいたが、カスミさん自身も会社を辞めたくはなかったから、ことを大きくするつもりはなかった。
「結局、泣き寝入りですよね。彼はハワイで親族だけの挙式をして、その後、東京で会費制のパーティを開きました。そのパーティに部署が違う私は招待されなかった。乗り込んでやりたい気持ちはあったけど、勇気は出ませんでした」
それが2年半ほど前のできごと。それから今まで、彼女はずっと心の痛い状態で暮らしている。仕事だけはがんばっているが、週末はほとんど家にこもっているそう。
「ずっと通っていたスポーツジムで、ときどき話していた男性に告白されたんですが、まったくその気になれませんでした。それどころかジムは休会してしまいました。もう恋愛なんてしたくない、男性を好きになることなんてないかもしれない、そう思いました」
確かに彼の不誠実さは女性を傷つける。どういうつもりでつきあっていたのか、なぜ別の女性と結婚することになったのか、彼女ならずとも聞いてみたくなる。一方的に気持ちを断ち切られるような恋愛の終わり方はあとをひくのだ。
「いつになったら次の恋愛ができるんだろう。そう思うことはあります。何をすれば彼を忘れられるのか、彼を恨むことがなくなるのか。彼は昨年、子どもが産まれたそうです。そういう情報も入ってきてしまうのがつらい」
復讐は考えていない。かといって新たな一歩も踏み出せない。まさに自分自身が膠着状態になっているカスミさん。
「いつか恋ができるようになるのでしょうか。このままずっと誰のことも好きになれなかったらどうしようと思う。でもその半面、やっぱり誰かとつきあうのが怖い。ずっとそんな感じです」