■経験豊富に装ってしまう…
くっきりした目鼻立ち、オレンジ色のニットにチョコレート色のスカートが非常に似合っているミエコさん(31歳)。明るいしどんな話題にも食いついてくるタイプのようで、モテるだろうなと思われる。ところが……。
「私、大学生のころに一度、3ヶ月くらいつきあったことがあるだけで、あとはいっさい恋愛経験がないんです」
驚くようなことを言う。もちろん、告白されたこともあるし、友だちだと思っていた男性から「もう友だちのふりはできない。好きなんだ。つきあってほしい」と言われたこともある。だが、彼女は誰ともつきあってこなかった。
「学生時代のつきあいは本当になりゆきだったんです。酔って彼の家に運ばれちゃって、体の関係ができてしまって。つきあってほしいと言われたので、一応つきあっていることになっていたけど、ふたりで行ったのは映画に3回くらい。学生だしふたりともお金がないし、ろくなデートもしませんでした。彼の部屋で何回かセックスしたけど、それもいいとは思えなかった」
その後、誰ともつきあおうと思わなかったのは、「好きになる」とか「つきあいたい」という気持ちがよくわからなかったためだという。
「でも、こんな性格だしこんな顔だし、なんだか恋愛ばかりしているように思われるんですよね。恋愛していないなんて言えなくて、ついつい私自身、経験豊富な女を装ってしまう。だからすっかり耳年増というか、知識ばかりで頭でっかちになっているんです」
飲み会での下ネタなどにも積極的に入っていく。性的にオープンな女性であることを示すことで、彼女はますますモテていく。だが実際には恋愛からは逆に遠ざかっているのだ。これでいいと彼女自身も思ってはいない。
「ただ、今さらどうしたらいいかわからないんですよね。好きという感覚そのものがわかっていないのに誰かとつきあってみることもできないし……」
■犬と遊んでいるほうが楽しいなんて…
もうひとり、似た状況にあるのはマナさん(30歳)だ。誰かを好きになったこともないし、恋愛経験もないのだが、しょっちゅうデートはしている。
「とりあえずデートをしてみて考えようと思って。でも二度会うと、だいたい飽きちゃうんですよね。時間がもったいない、早く帰って飼っている犬と遊んでいるほうが楽しいななんて思ってしまうんです。どんなにがんばっても3回かなあ、ひとりの人とデートするのは。相手が『つきあってほしい』と言うころには私はもういいや、という気持ちになっています」
彼女の場合、恋愛していない自分に負い目のようなものはない。好きになるかどうかは自然の摂理みたいなものなので、特に気にはしていないという。
「犬を飼っているというと、『結婚できないよ』とよく言われるんですが、確かに人間の男より犬のほうがかわいいし、癒やされますからね(笑)。結婚にもそんなに興味があるわけではないから、それでもいいやと思っていますが」
SNSで犬好きの人たちと会話をしたり、実生活でも近所の犬好きの人たちと飲みに行ったりしている。職場の人間関係も良好だというから、彼女が特に「人として」どこかおかしいわけでもない。
「人生から恋愛が欠落している女なんです。それでも私は生きている充実感はある。だったらそれでいいのかなとも思っています。もちろん、こんな話、周りの誰にもできませんけど……」
経験豊富に見せかけたほうが周りとの関係もうまくいくから、と彼女はそれについては少し恥ずかしそうに言った。「人と違う」ことは、ときとしてこの国では生きづらさにつながっていく。