多少の嫉妬は男女関係においてスパイスとなり得る。まして結婚生活が長くなれば、お互いに馴れ合いとマンネリにうんざりしかねない。そんなとき、うまくスパイスを使えたら関係は変わるのかもしれない。
■夫から妙な申し出
21歳のとき、一回り年上の男性と結婚したミカさん(47歳)。ふたりの子はすでに成人し、今は夫婦ふたりで暮らしている。
「1年半くらい前、夫から妙な申し出があったんです。結婚生活も長くなって、お互いに馴れ合いすぎた。きみはもっと外で恋をするべきだって」
最初は何を言っているんだろう、夫は自分が浮気したいだけなのではないかとミカさんは疑った。だが夫は本気だったらしい。
「若くして結婚して、子育てと仕事に追われてきたんだから、このあたりで自由に行動したほうがいいと夫はまじめな顔で言うんです。よく話を聞いたら、『恋をしているミカを見たい』って。実は私たち、できちゃった婚なんですよ。結婚生活の間に私は夫を深く愛するようになりましたが、確かに“恋愛”はしたことがなかった。だからといって今さら恋愛する気にもなれなかったんですけど」
するとある日、夫が友だちを家に連れてくると言い出した。まれにそういうことはあったから、ミカさんは食事を作って待っていた。夫が連れてきたのは30代のイケメン。飲み屋で知り合ったのだという。
「最初は3人で食事をしたり飲んだりしていたんですが、食後、リビングのソファに移動してからは彼が私にべったりしてきて。困って夫の顔を見ると、夫はニコニコしながらもっとくっつけという仕草。彼がすごくさわやかで、私好みのイケメンだったので、私もついつい仲良くしちゃって……」
部屋の中には感傷的なボサノヴァが流れている。夫がCDをかけたらしい。イケメンの顔が近づいてきたとき、彼女は我を忘れて彼に抱きついてしまったという。
■夫の欲望につきあうフリをして
ソファで眠ってしまい、起きたときには彼はいなかった。夫が彼女の髪を撫でている。イケメンと彼女の情事を、夫はこっそり眺めながら興奮していたのだという。
「どうしてそんなことを、と私は言ったのですが、夫は本当にうれしそうに『ミカがおれ以外で感じてくれるのがうれしいんだよ』と。私のことが好きじゃなくなったのねと嘆くと、『本気で好きだからつらい』とも。つらいならそんなことしなければいいのに、『つらいからいいんだ。ミカを本気で愛していると実感できる』って涙目になっていました」
それ以降も、夫はときどき知り合いを連れてくる。ときにはふたりでバーなどに出かけ、知り合った男性を連れて帰ることもあるという。
「夫の昏い欲望につきあうのは最初は戸惑ったんです。いつかそれを理由に私を嫌いになるのではないか、離婚を言い出すのではないかとか、いろいろ考えてしまって。でも今は、夫は嫉妬することで私への愛情を確認しているのだろうと思うようになりました。他の男性と交わっている私を見ると、夫の中で複雑な感情が入り乱れて、日常を大事にしようと新たに誓うんだそうです」
もともと夫婦仲はよかったが、ミカさんの心にも以前と違う思いがわいてきた。こんなふうに彼自身を痛めつけるような愛情を注いでくれる夫に母性にも似た慈愛がふくらんでくるのだそうだ。
夫婦の愛情の行き着く先はどこなのか。今はまだわからないが、「夫が満足するまでつきあってみようと思います」とミカさんは微笑んだ。