横浜市の新交通システム「金沢シーサイドライン」新杉田駅で6月1日、発車しようとした車両が逆走して車止めに衝突し、15人が負傷した事故は大きな話題になった。筆者は国内外の新交通システムを取材し、何度も記事にしてきたこともあり、テレビからコメントを求められたりもした。
これは自動車などにも言えるが、自動運転になったからといって事故がなくなるわけではない。交通事故の原因の多くは人間のミスと言われるが、自動運転の車両やインフラもまた人間が設計し製造するわけで、そこでのミスも起こり得る。
ただ設計や製造は、運転に比べれば時間をかけてじっくり取り組める。自動運転のミスが少なくなる理由はここにある。さらに最近の日本の公共交通は運転手不足が深刻であり、自動運転はこの問題改善にも効果がある。なので筆者は今回の事故のあとも、自動運転や無人運転を推進する立場である。
今回の事故報道では、ATOという言葉が何度も出てきている。ATOとは自動列車運転装置の略だ。鉄道の安全対策は、赤信号を見落とした際に自動的にブレーキをかけるATS(自動列車停止装置)、設定速度どおりに車両を走らせるATC(自動列車制御装置)があり、ATOは鉄道の自動運転では最高レベルになる。
ATOにはシーサイドラインのような無人式のほか、有人式もある。筆者がよく利用する東京メトロ丸ノ内線をはじめ、国内の多くの地下鉄で実用化されている。無人運転は運転士の代わりに、集中管理室で係員が状況をチェックしている。国内外で実験走行している同じ無人運転の小型バスと同じだ。
■自動停止機能があれば事故は防げた
ただしATOが原因による事故は、路線数が少ないこともあるが、通常の鉄道の事故に比べれば少ない。筆者が記憶している我が国の事例では、1993年に無人運転新交通システムの大阪市「ニュートラム」で、終点の住之江公園駅で停車せずに車止めに衝突し、200名以上の負傷者を出した事故ぐらいだ。
しかも現時点での情報によると、今回の事故はこのATOが原因ではなく、集中監理室と車両との間の情報伝達も正常であったそうで、車両の配線が切れてモーターが逆回転に切り替わらなかったためだという。
気になるのは新杉田駅のような始発駅や終着駅で、通常列車が止まる位置から車止めまでの間に、ATOなどの制御装置が入っていなかったことだ。逆走など起こらないと信じていたのだろうか。この間にもATOのセンサーがあれば異常をすぐ感知し、車止めの前で停止できた可能性が高い。
またクルマの世界では、今や軽自動車にも衝突被害軽減ブレーキが付いており、10万円以下で装着が可能になっている。同じ安全装備を鉄道車両にもつければ、今回のような車止め激突事故の防止にはなるだろう。
事故から3日後、シーサイドラインは手動で運転を再開した。代行バスでは利用者をさばききれないことから、動かすことを優先したと思われる。一方で東京都の「ゆりかもめ」などでは、始発駅や終着駅で係員が車両状況をチェックし、逆走などが起きた際はすぐに列車を停める対策を施している。
すでに原因は明らかになりつつあるので、車止め付近に自動停止機能を加えたうえで、1日も早く無人運転を復活させるべきだろう。無人から有人、自動から手動に戻すのは技術の逆走だ。日本の新交通システムは安全性や信頼性が高く、シンガポールでは外国製からの置き換えを行ったところさえある。その地位は堅持してもらいたい。
それに今回の事故では死者は出ていない。ニュートラムのときもそうだった。一方でクルマの交通事故は毎日のように報じられ、シーサイドラインが運転を再開した4日には、福岡で高齢者が運転する車両が暴走して数台を巻き込み、運転者と同乗者が死亡するという恐ろしい事故が起きた。
前にも書いたように自動運転は完璧ではない。しかしシーサイドラインが有人運転だったとして、突然の逆走に運転士が驚いてパニックになり、そのまま激突した可能性もある。福岡の死亡交通事故と合わせて考えれば、やはり人間の運転のほうがミスは多いという結論になるだろう。原因をしっかり解明したうえで、より安全な自動運転、無人運転を目指してほしい。