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ひきこもりは「恥」ではない。追い詰められた“カプセル親子”を救えるのは…




お役所のトップ、事務次官まで昇りつめた男が76歳になって、なぜ44歳の長男を自宅で刺したのか。直前に川崎市で起きた20人殺傷事件の影響も受けた、という父親の衝撃的な供述から、事件の背景としての「ひきこもり」がクローズアップされています。



 



「ひきこもりがちで、中学の頃から家庭内暴力があった」という長男。私は不登校の子や、定職に就かず実家にこもる大人を取材しますが、彼らが自尊心を保てず、家で両親に当たり散らしてしまうことは、決して珍しくありません。



 



特に、親の側が「学校に行かなければダメ」「家にこもるなんて、いい加減にしなさい」「いつになったら働くの」などと追い詰めてしまうと、子の心は荒れてしまいがちです。



 



 



■「いじめ後遺症」? 対人不安は大人になっても続く



 



元次官の長男については、本人とみられるツイッターに書かれた、子ども時代の「いじめ」の影響も気になります。



 



彼が受けたという「いじめ」の具体的な内容は明らかではありません。ただ、人格を否定するような「いじめ」は、被害者を深く傷つけ、その影響は大人になってからも長く続くことから、「いじめ後遺症」という新たな問題を生んでいると、最近の研究で明らかになっています。



 



「いじめ後遺症」から、「対人不安」や、「コミュニケーションのしづらさ」を抱え、学校や職場のような集団社会になじめず、孤立したり、実家にひきこもる人もいます。



 



他の「普通の人」のように、うまく生きられない自分にいら立ち、そんな自分をこの世に生んだ親に、怒りの矛先を向けてしまう。子どもたちの反乱行動は、「助けてほしい」というSOSかもしれません。



 



 



■“カプセル”に閉じこもる親子。まずは、親のケアを



 



ですが、親の側から見れば、理想と異なるわが子の姿に戸惑いを隠しきれないものです。自分の育て方が悪かったのか、と親も追い詰められてしまい、外部との関係を断ったり、相談することを避ける“カプセル親子”の状態になってしまいがちです。



 



そんな親の心の奥には「ひきこもりは家族の恥」という意識があるのかもしれません。そんな風に親たちを追い詰めてしまう、「社会の視線」が存在すると言ってもいいでしょう。



 



まずは、カプセルを開いて、家族を「社会で救う」アプローチが必要です。不登校もひきこもりも、まずは同居する家族へのケアから始め、家庭の中を安定的に保つことが大切です。



 



 



■「あなたは、あなたのままでいい」



 



私が出会った、ある「元ひきこもり」の男性は言いました。



 




「一番つらかったのは、自分の存在を、誰からも認めてもらえなかったことです」




苦しい時を経て、彼を救ったのは「ずっと、つらかったんだね」と寄り添ってくれた、彼の父親の言葉でした。父親も、ようやく巡り合った「親の会」を通じて、同じ悩みを抱えた親たちと共感しあう中で、「ありのままのわが子」を受け入れることができたと言います。親という生き物は、いかに「期待」という名の「プレッシャー」をわが子に与えてしまうものなのか、と考えさせられます。



 



ひきこもりは「恥」ではない。そう私は思います。



 



政治家たちは、「このままでは生活保護を受ける人が増えて、社会保障費が大変だ」と言うかもしれません。



 



ですが、画一的な教育の場や、新卒一括の採用方式、非正規雇用の増大など、学びや働き方の硬直こそが、そのレールに乗らなかった人の「生きづらさ」を生んでいるのではないでしょうか。



 



中高年のひきこもりは全国で61万人。その数の多さが、問題の根っこが個々の家族ではなく、社会にあるのだと教えてくれているように思うのです。


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