なにを隠そう(別に隠さなくてもいいのだがw)、私は故・山崎豊子さんの大ファンだったりする。山崎作品はどれも最低3回は読み直し、その雄大なスケールのメタフィクションな物語はすべて頭に叩き込んでいる。
元新聞記者ならではの、松本清張に並ぶテンポの良い文体に、執拗なまで細部のリアリティにこだわった圧倒的な取材量。それに(ほとんどが)全5巻前後にもおよぶ長編であるにもかかわらず、最後まで飽きさせずに読者を一気に引き込む卓越した構成力──私のような妄想系の短文(コラム)を仕事のメインとする文筆家にとっては(※同業者として語るのもおこがましくはあるのだけれど)無いモノねだり的な才能のオンパレードで、『華麗なる一族』『二つの祖国』『大地の子』『沈まぬ太陽』『運命の人』……諸々、熟読すればするごとに、おのれの力不足を痛感さえしてしまう。ちなみに、甲乙付けがたくはあるのだが、あえて一番好きな作品を挙げるなら、シベリア抑留と商社間の出し抜き合いを題材とする『不毛地帯』……ですかね?
そして、多くの山崎作品がドラマ化や映画化されるなか、このたび大学病院の教授争いを舞台とする大ヒット作『白い巨塔』が岡田准一主演で、(韓国版も含めば)じつに七度目の実写化を果たした。有名どころだと、昭和には故・田宮二郎主演の映画化で、平成では唐沢寿明主演のドラマ化(フジテレビ系)──「テレ朝開局60周年記念ドラマ」を銘打って「5夜連続」といった前代未聞の編成でもって、大々的に放送された今回は、視聴率もオール10%超えと、“大ヒット”とまでは言えなくとも、まずまずの数字を弾き出している。
いろんな記事や、そのコメント欄をザッと眺めてみるかぎり、主人公の財前役を演じた岡田准一に対する、
「背が低くて、威厳が感じられなかった」
「唐沢と比べて、野心だけではない、時折見せる人間臭さが演じられていなかった」
「目力だけ鋭くて、インテリジェンスが感じられず、肩を揺らしてドカドカ歩く姿も有能な外科医というイメージからほど遠い」
……ほか、酷評もチラホラ目についた。しかし、私の個人的な印象を述べさせていただくなら「そこまで悪くなかったのでは…?」ってえのが正直なところであろうか?
たしかに、今回(岡田准一)の財前サンは、過去の実写版と比較すれば、人でなしっぷりが突出していたものの、まあこういう解釈もアリ……かもしれない。あと、誰がなんと言おうと脇役が良かった……と私は思う。ライバルの里見役を演じた松山ケンイチの朴訥で空気が読めない誠実さ、目の上のタンコブ的な東教授役を演じた寺尾聰(※最初はちょいキャラが弱いかも…とも感じたが、後半の弱っていくさまは寺尾ならではの侘び寂びがキラリ光っていた)、堅物の病理学科教授・大河内役を演じた岸部一徳の腹が読めない不気味さも良かった。財前の義父役を演じた小林薫のゲシゲシ感も、前作の西田敏行ほどの迫力こそなかったが、そのぶん底意地の汚さは十分に表現されていた。
あと、特筆すべきなのが女優陣。沢尻エリカ……むっちゃ愛人! あんな愛人がいたら、そりゃあ天下の財前もハマってしまいますわ! 財前の“正妻”役を演じた夏帆のイマイチ冴えない外見とジワリかいま見せる虚栄心の強さも地味にハマり役……(原作では男である)機を見るに敏な脳外科教授の野坂役を演じた市川実日子もなかなかに斬新で、十分に楽しめた。
結局のところ、山崎作品は、とにかく“原作”が優れすぎているので、その“長い尺”を実写化しようとする根気と予算さえあれば、必ず“それなりの秀作”へと仕立て上げることができるのだ。どんだけ好きやねん! 豊子サマ!!