『しらべぇ』によると、かつては「渋谷の王子様」と呼ばれ、『ラブリー』『今夜はブギーバック』などのヒット曲で知られる歌手の「オザケン」こと小沢健二(50)が4月5日、突如ツイッターに降臨。ファンのあいだで大きな話題になっている……らしい。
初投稿は英語であり、卵かけご飯について綴る……といった内容で、翌朝には日本語での投稿も。4月8日の時点で27000を超えるリツイートがなされるバズりっぷりなのだという。とりあえず、その“日本語版”のツイートの全文を、以下に紹介しておきたい。
“humble brag”ハンブル・ブラグとは、へり下ったふりをした自慢のこと。見ますよね、よく。例えば「昨晩ツイッター始めたものの、朝起きたら1万人以上のお名前が並んでいて。どなたにフォローお返ししたら良いかわかりません!」とか。でも本当にどうしよう。考えます。
中学生諸君、社会の試験で「日本の主食はお米、アメリカの主食は?」とあったら、答えは「パンは副食(side)で、チキンやパスタ等、その日のメイン料理が主食。パンは補助的な存在で、設問はむしろ日本の食事観と集団的思いこみを表してますね、先生」と書くのをこらえて「パン」と書こう。
なぜ、「要約」ではなく「全文」なのかと言えば、このオザケンによるツイートがあまりにスキのない完璧な“原稿”だったので、一言一句読み逃してほしくなかったからである。
ツイッターとは、ご存じのとおり140文字という決して多くはない文字数制限内で、自身の主張を(読み手に)わかりやすく伝えるよう、極力無駄文字を省いた整理整頓された文章を再構成しなければならない、じつのところは相当に難易度の高い表現手段だったりする。そして、通常では、たとえば“文字数を削る”ために句読点を省いたり、変換できるものはなんでもかんでも漢字で表記してしまったり……結果としては「わかりやすく伝える」の部分を捨てた、可読性の低い“原稿”へと成り下がるケースが大半だ。
なのに、これらのツイートは、打つべき箇所にきちんと句読点は打たれ、ひらくべき文字はさらりと平仮名にひらかれ(「謙った→へり下った」「分かりません→わかりません」「思い込み→思いこみ」)、しかも最初のツイートは126.5文字、次のツイートは135文字で見事にまとめ上げられている。
テーマの斬新なチョイス、流れるかのごとくスイスイと内容も頭に入ってくる秀逸なリズム感とギリギリまでシェイプアップされた文体による「読みやすさ」はもちろんのこと、オザケンならではのシニカルな視点も控えめではありながら健在──まるで、シンプルな具しか入っていないペペロンチーノの味を引き立てる“一振りの胡椒”のように、ピリリと利いている。
あえて冒頭へと持ってきた「“humble brag”ハンブル・ブラグ」「中学生諸君」というキャッチコピーのセンスも素晴らしい。突飛な台詞でまずは読み手の頬をビンタしてから、自身のロジックを展開していくその手法には、日本語と英語をバイリンガルできるインテリならではの言語に対する深い洞察をかいま見ることができる。「中学生諸君!」ではなく「中学生諸君、」からペン(キーボード?)を進めた段階で、もう勝ったも同然……ではないか。
よく「ネットで上手に原稿を書く秘訣は?」みたいなことを訊ねられるが、私は、東大文学部卒と、アーティストのなかでもズバ抜けた高偏差値を誇るオザケンによるこの二つのツイートを暗記するまで何度も読み返してみるのが一番の早道なのでは……と思う。で、何度も読み返したのちに、今度は徹底的に真似てみることを心がければいい。10000文字の原稿を一本書くより140文字の“キャプション”を百本書くほうが、文章力ははるかに上達するものなのだから。