いま先進国では、「週休3日制」が議論されている。
週休3日にすると、労働者のストレスが軽減されて、生産性が向上するという。ニュージーランドの金融サービス会社が実際に実施し、検証した結果、生産性が約20%向上。続いて、イギリスをはじめ、オーストラリア、アメリカ、ドイツでも、導入が検討されているという。
休みが増える上に生産性が向上して収益が上がるなんて、これほど理想的なことはない。多くの企業がどんどん導入していけば、幸せな人生を送る人が増えるだろうが、はたしてこれは現実的なことなのか。夢物語ではないのか。
■7割の日本人にとって夢物語みたいなもの
一部では実現可能なことではあるが、日本のおよそ70%の人は、その幸せを享受することはできない。
週休3日を実現するためには、商材・設備・人材といった経営資源が潤沢でなければならず、つまり自転車操業に陥ることのない余裕を持った企業でなければ実現不可能なのだ。それができるのは、日本企業の中では0.3%、従業員数で言えば労働人口の約30%。すなわち、大手企業のみである。大手企業は知的作業が多いため生産性を上げやすく、物理的な作業であっても下請けにまわせば見せかけだけでも生産性を上げることができる。
知的作業を行う人は、ゆっくり休むことで心身がリフレッシュされれば、集中力が高まり生産性が上がる。だが、物理的な作業をする人が集中力を高めても、そのスピードには限界がある。「町工場」を例に考えてみよう。
朝から晩まで働き続けて、製品がカタチづくられる。納期が迫れば、残業も当然。機械も人材も最低限でまわしているので、常に納期に追われ、休みを増やすことなど考えることさえできない。
休みを増やすには、オートメーション化するしかない。現実問題としては、資金が無いのでできないが、仮にできたとすれば週休3日どころか週休7日になってしまう。すなわち、人員削減。失業である。町工場は、働いて、働いて、働き続けて、やっと生活できる程度なのである。
■物的要求から精神面の充足へ
日本の約70%の人は、同じようなもの。「景気は良くなっている」「収入が増えている」という話は、大手企業のことであって、日本全体のことではないのは誰もが知っている。
とはいえ、少しずつではありつつも働き方が変わり始めているのは事実である。かつて日本人労働者は、「エコノミックアニマル」と揶揄された時期があった。高度成長で、物質的豊かさを手に入れるために、勤労意欲旺盛な人たちが、休み返上で汗を流していた。だが、物的欲求のなくなった今の日本人は、あくせく働くことをやめた。精神面の充足に力を入れ始めたのである。
そのため、日本の労働時間はどんどん短くなり、主要国の国別ランキングでも下位となっている。雇用形態の違いなどもあるので一概には言えないが、あまり働かない国になっていることは否定できない。
それでも何とか経済がまわっているのは、コンピュータやIT機器の発達によって作業の効率化が図られたからである。決して、人の生産性が向上したのではない。能力が向上したわけではなく、“道具”を使いこなしているに過ぎない。
純粋に生産性を上げるには、人の能力を高める他の何かが必要なのではないか。
■労働時間が減った先に起こるだろうこと
今のまま労働時間を減らすと、人はどうなるか。休日を楽しみ英気を養いたいところだが、収入が増えるわけではないので出掛けることもままならない。収入を増やすために副業する人も出てくるだろう。そして結局心身が疲れ、生産性はさらに落ちるだろう。休みを増やせば良いという単純な話ではないのである。
現実には、週休2日の企業すら、まだまだ少ない。地方の建設業などは、いまだ週休1日であり、祝日に休むところも少ない。週休3日制の議論など、夢か幻である。ほんのひと握りの大手企業、ホワイトカラーの考えることを、さも世の中の流れのように流布するのはやめてもらいたい。
町工場をはじめ、農林漁業、建設業、運輸業、サービス業が週休3日になったら、どうなるか。……社会の機能は停止する。