ノンフィクションライター亀山早苗は、多くの「昏(くら)いものを抱えた人」に出会ってきた。自分では如何ともしがたい力に抗うため、世の中に折り合いをつけていくため彼らが選んだ行動とは……。
性的に昏いものを抱えているのは、圧倒的に男性が多い。男性のほうが若いうちから性欲にさいなまれたり自分の意志と違う方向で興奮したりするケースが多いからだろうか。
■10代のころから年上好き
マサトシさん(48歳)は、13歳のころ,20代後半だった隣の家のおねえさんにいきなりキスされたことがある。
「うちは男兄弟3人で、みんな野球やサッカーをやっていた。父は大学野球をやっていた人だし、母もソフトボールの選手だった超スポーツ一家。女の子に興味があるなんて言える雰囲気でもなかったんです。でもある日、風邪をひいて早退してきたら、隣の家のおねえさんと家の前でばったり。彼女、そのまま僕の家に来て氷枕を作ってくれたりしたんです。そして熱でぼうっとしている僕に熱い熱いキスをして帰っていきました」
それ以来、彼は隣のおねえさんに恋い焦がれるが、彼女は結婚して家を出て行った。その思いは「年上好き」となって表れる。
「高校生のときは8歳年上の会社員とつきあっていました。この彼女がすごくエッチ好きで、僕は彼女に性のことをすべて教わったと思っています」
■同世代と結婚はしたけれど
大学を出て社会人となり、30歳のとき1つ年下の女性と社内恋愛の末、結婚した。すぐに子どもにも恵まれ,ごく普通の家庭生活を営んできた。
「ただ、妻とのセックスは決して楽しくはなかった。僕が求めているのは自分より年上の熟女でした。結婚して3年ほどたったとき、18歳年上の女性とつきあい始めたんです。この女性がまた、とろっとろの肉体をしていて、溺れましたねえ。女性の魅力は心身共に柔らかさじゃないかと思うくらいでした」
マサトシさんの目がとろけるようだ。だがこの関係は、彼女の都合で1年ほどで終わりとなった。
「今は還暦を過ぎた女性とつきあっています。どうしてこんなに年上が好きなのかわからない。隣のおねえさんだけの影響ではないと思う。僕は実は母親と折り合いがよくなかったんですが、心理学的に言ったらそういうこともあるのかもしれません。折り合いがよくないというと聞こえがいいけど、何かあるとすぐ母に殴られていたんです」
だからこそ、年上の女性に愛されたい、かわいがってもらいたい、認めてもらいたい。そして柔らかい肉に埋没する心地よさに無上の幸福感を覚える。「年上好き」と公言していても、実際につきあうのは年下ばかりという男性もいる中で、彼は真性の「年上好き」のようだ。その原因は少し哀しいものがあるが、家庭に悪影響を及ぼさないという確固たる意志のもと、彼はひとり昏い自尊心を満たそうとしているのかもしれない。