「困っている人を手助けしたい」という意思表示のため、衣服や手荷物につけるバッチ「マゼンタ・スター」が話題を集めているそうです。
このバッチ、“手助けしたい気持ちはあるけれど声をかけるには勇気がいる人”のために考案されたそう。シャイな日本人向きの取り組みだと思いますし、優しい世の中にするための一歩として素晴らしいと思うのですが……。
私もバッチをつけてみよう!と思ったときに、小市民な筆者が感じたモヤモヤをご紹介したいと思います。
■「いいね!」を稼いで終わりそう
【モヤモヤシーン1】 助けてほしい人が勇気を出すの?
人助けの意思をカミングアウトするという意図のようですが、声をかけるのに勇気がいるのは、助けが必要な人も一緒です。声をかける勇気を相手に強いるのは、やっぱり気が引けます。
【モヤモヤシーン2】 バッチをつけただけで満足してしまうのでは?
アメリカ衛生研究所が行った脳の研究によると、お返しのあるなしに関わらず、私たちの脳にとっては親切に振る舞う行為そのものが報酬なのだそうです。バッチをつけたときにも脳の報酬系の部分は反応しそう。計画を立てただけで、やったような気持ちになってしまうことも多い筆者は、
購入(いい気分になる)→SNSで「いいね!」をもらって喜ぶ(親切を認められたような気持ちになる)→バッチをつけて行動(やった感を味わう)
の流れだけで満足してしまうかもしれません。
■声をかけるのは善人ばかりじゃない
【モヤモヤシーン3】 声をかける人は善人ばかり?
私たちには「一貫した人間であると見られたい」という欲求があります。バッチをつけた人が声をかけられた場合、多少不自然な依頼であっても協力してしまう確率は高いと思われます。筆者が警察出身だからそう思ってしまうのかも知れませんが、こういった状況を悪用する人が出てくる可能性もあるのでは?
【モヤモヤシーン4】 援助で相手が傷つくことも?
人助けの際には、助けられる相手の心理を考えることも重要です。弱みを見せたというネガティブな感情を抱いたり自尊心が傷ついたりするかもしれません。
■「ありがとう」の意味で「すみません」と言う日本人
援助行動について研究しているガーゲン先生たちの実験(※)を簡単なクイズにしましたのでやってみてください。
【人助けクイズ!】
ゲームに参加している最中、チップがなくなってしまった人がいました。
その場に居合わせた人が、10枚のチップとメモを渡しました
これによって、チップを受け取った人はゲームを続けることができました。
ゲームに使っているチップは現金に換えられます。
どのメモをくれた人の好感度が高かったでしょうか
- チップと共に「返さなくていいよ」というメモを渡した人
- チップと共に「ゲームが終わったら返して」というメモを渡した人
- チップと共に「ゲームが終わったら利子をつけて返してね」というメモを渡した人
皆さん「当然1だよね!?」と思われるのではないでしょうか。
正解は、なんと2。
実験はアメリカ、スウェーデン、日本で実施されましたが、日本人は特に「後で返してね」という程度の借りを好むようです。「返さなくていいよ」と申し出た人の好感度は、「利息をつけて返してね」に匹敵するくらい低くなってしまうのです。
そうそう、私たち日本人は「ありがとう」の意味で「すみません」を使う人種でした。よかれと思ってしたことが、相手に負債感を与えてしまうというケースもあるんですよね。とほほ。
■“親切の判断基準”を決めておこう
「助けが必要な人は声をかけて」という作戦を考えた人、実践する人たちを尊敬するものの、筆者は別の作戦を提言したいと思います。それは「親切が必要かな?」という場面に遭遇したとき、スルーするか、実行するかの基準をあらかじめ自分で決めておくということです。あまり自慢できるものではないのですが、参考までに筆者の判断基準をご紹介してみます。
上記の2まではスルーという選択もアリにしていますが、3でやらないと、後で罪悪感におそわれるので、勇気を振り絞って行動するようにしています。
断られて何度も恥ずかしい思いをしてきたので、断られにくいフレーズも考えました。どんだけ小市民なんだと思われそうですが、様々な場面に応用できるので、よかったら読んでみてください。
「シャイな人でもサクっと席を譲れるようになるフレーズ&アクション」
せっかく社会を良くしようと東大生が考えてくれたのに、個人的モヤモヤを発信してしまいごめんなさい。このコラムが、「誰かの親切を考えるきっかけ」になれば嬉しいです。
※Gergen,K.J.,Ellsworth,P.,Maslach,C.,&seopel,M.(1975)Obligation,donor resources,and reactions to aid in three cultures.