ノンフィクションライター亀山早苗は、多くの「昏(くら)いものを抱えた人」に出会ってきた。自分では如何ともしがたい力に抗うため、世の中に折り合いをつけていくため彼らが選んだ行動とは……。今回スポットライトを当てるのは、寝取られ(NTR)願望の男。「自分の妻を誰かに抱かせたい」。そんな願望を持つ男性はそう珍しくはない。そんな思いに取り憑かれた男性が選んだ道とは。
■妻への愛をもっと強くするために
愛する人を他の男性に抱いてもらい、それを見ることで興奮する。そんな寝取られ願望をもつ男性に会った。そういう願望を持つ人のすべてが、それを実践しているわけではないし、中には「妻の浮気の話を聞くのが大好き。見たくはない」という人もいる。そのあたりの嗜好は千差万別である。
ダイチさん(36歳)は、8歳年下の妻を誰かに抱かせたくてたまらなかった。だが妻は最初は「何を言ってるの」と相手にしてくれなかった。
「だから必死で説得したんです。僕以外の男に抱かれている君をそばで見たい。感じている顔を客観的に見たいんだって。きっと嫉妬する。でも僕は君への愛情を今以上に感じることになると思う。そうやって説得するのに1年かかりました」
妻も夫の願望が本気であることに気づいたのだろう。イヤだったらいつでもやめていい、という条件のもと、とあるハプニングバーへと向かったそうだ。
■夫の愛情はせつなく、より激しく
実体験してみると、ダイチさんは自分で予測していた以上に複雑な気持ちがわきおこってきて驚いたという。
「ひとつには“僕の妻”だと思っていたけど、彼女はあくまでもひとりの女だったということ。世の中には女性の扱いがうまい男がたくさんいて、彼女は僕とでは感じられない快感を得た。だけど、それがふたりの関係に悪影響を及ぼすことはなかった。そして僕はものすごく嫉妬して落ち込んでしまいました。だけど妻への愛情はより強くなった」
日常的に妻を慈しみ、それまで以上に家事を積極的にやるようになったという。「他人である妻」を実感したから、より協力しあっていたきと感じたそうだ。
「それ以来、ときどき妻とハプバーに行きます。妻も他の男性とセックスすることに抵抗はなくなったようで、自分の快感の発達に驚いている。明らかに僕とするより感じているとわかるんですが、僕も謙虚に他の男性のテクニックを教えてもらったりして、夫婦間のセックスも以前より充実してきています」
彼の心の奥深くには、もっともっと妻を感じさせたいという欲望がある。そのために自分がさらなる嫉妬に苛まれてもかまわないという。そうまでして妻を他の男性に抱かせたいのは、いったいどうしてなのだろうか。
「自分でもわからない。昏い欲望ですよね。ときには自分を全部否定されるような気持ちになることもあるんですが、妻の快感に満ちた顔がきれいで、また見たいと思ってしまうんです」
半分、うれしそうな、半分、苦渋に満ちた表情。彼自身も分析できない「何か」なのだろう。