JR東日本の山手線や東北新幹線などが、運転士がいない無人運転車の導入に向けて検討を始めたというニュースが今週あった。少子高齢化で今後、運転士や車掌などの不足が予想されるためで、すでに社内にプロジェクトチームを設置しているという。
鉄道にくわしい人は、それほど驚かなかっただろう。すでに無人運転を実施している鉄道は存在するからだ。東京のゆりかもめや神戸のポートライナーなど、新交通システムと呼ばれることが多いAGT(オートメーテッド・ガイドウェイ・トランジット)はその代表である。
AGTは自動車の増加による交通渋滞や環境悪化に対処するため、1960年代にアメリカで考案された。日本ではポートライナーが1981年ともっとも早く開業し、続いてゆりかもめなどが走り始めた。
AGTは地上からかなり高い場所を走る高架線で、踏切はなく、駅には最初から車両とほぼ同じ高さのホームドアを設置することで、利用者との接触事故を防いでいる。こうした設備があるからこそ無人運転が導入できたと言えるだろう。
鉄の車輪ではなく、自動車と同じゴムタイヤを使っているのは、高架線で気になる走行音が抑えられるほか、加減速や登坂性能に優れるため。路面にはセンサーが埋め込まれており、車両がこのセンサーを読み取って加減速や駅でのドア開閉などを行っている。
一見するとレールがないように見えるが、たとえばゆりかもめでは側壁部分に上下2段の細長いレールが取り付けてあり、2本のレールの間に車体下から左右に伸びたアームの先の小さな案内車輪を入れて進路を決めている。
進路を変えるときは、下側のレールの一部が左右に首を振ることで案内車輪を誘導する。この進路変更を含め、列車の運行状況は中央司令所という場所で集中管理している。非常時の車内アナウンスもここで行う。全車両一斉に同じアナウンスができるのは便利かもしれない。
■山手線よりも新幹線のほうが導入が容易か
日本ではAGTのみに使われている無人運転技術だが、海外では地下鉄にも使われていて、フランスのパリでは今から100年以上前に開通した1号線などに運転士のいない車両が走っている。一部の駅と橋以外は全線地下なので、ホームドアを付ければ人との接触は回避できると考え導入に踏み切ったのだろう。
日本の地下鉄でも無人運転ではないものの、運転士がボタンを押すだけで発進から停止までを行うATO(自動列車運転装置)の導入路線はある。札幌、仙台、横浜、福岡の地下鉄は全線ATOで、東京では東京メトロ南北線や都営地下鉄大江戸線、大阪では長堀鶴見緑地線などが採用している。
JR東日本が山手線や東北新幹線を無人運転に選んだ理由として、他の車両の乗り入れがない自己完結している路線であることが想像できるけれど、ATOを導入した地下鉄では他社からの乗り入れ車両も実施している。新幹線と貨物列車が同じ線路を共有する青函トンネルのような場所では難しいかもしれないけれど、似たような性能の列車の混在であれば難しくないだろう。
それよりも山手線で気になるのは、知る人ぞ知る存在ではあるが踏切があり、沿線から線路に立ち入りができそうな場所もあることだ。3年前には信号ケーブルが燃やされるという事件があった。この点をクリアしなければ導入が難しいだろう。
その点東北新幹線は踏切がなく、高架線とトンネルが続くという環境なので条件は良い。最高速度320km/hでの無人運転を気にする人もいるだろうが、飛行機のオートパイロットはかなり前から実用化しているし、JR東海が現在建設中のリニア中央新幹線は運転士が乗務しない予定とのことなので、スピードはあまり関係ないのかもしれない。
鉄道は路面電車などを除いて走る場所が占有されており、進路変更はレールで制御するのです操舵装置が不要だ。自動車よりも自動運転が実用化しやすい環境にあることは確実であり、少子高齢化対策としての無人化は推進して良いのではないかと思っている。