7月20日、映画監督・細田守の最新劇場アニメ『未来のミライ』が全国公開になった。2006年の出世作『時をかける少女』から数えて5作目。3年ごとの長編映画発表を守り続けているから、ファンにとっては3年ぶりの新作。そんな期待作だけに、街中やメディアでも『未来のミライ』を目にする機会は多いはずだ。
■細田守のアニメ映画のビジュアルは、なぜか「青い空」が登場する
ひときわ目をひくのが本作のキービジュアルである。青い空と白い雲をバックに、制服姿の女子中学生が本作の主人公である4歳の男の子・くんちゃんに手を伸ばす。女の子は映画の鍵となるくんちゃんの妹・ミライちゃんが成長した姿だ。
一体、何が起きているのか? 見る人を思わずドキドキさせると同時に、象徴的に描かれた青い空が夏休みの映画シーズン到来を感じさせる。
青い空と夏のイメージは、近年はすっかり細田守監督の映画のトレードマークになっている。思い起こせば『時をかける少女』のキービジュアルも青空が背景だった。
主人公の女子高生・紺野真琴が、空に向けて大きくジャンプするビジュアルだ。そして「夏」。『時をかける少女』は、高校2年生の夏を舞台に繰り広げられる。その季節感を伝えるのが、たびたび登場する青い空だった。
続いて登場した『サマーウォーズ』は、タイトル自体が「サマー」=「夏」である。ここでも青い空は夏のイメージの象徴だ。もちろん、キービジュアルも青空である。主人公とヒロイン、そしてヒロインの家族・陣内ファミリーの後ろには、緑の山と白い雲、青い空が広がる。
細田作品はその後、舞台を山奥の小さな村から東京・渋谷、さらに異世界へと自在に移していく。しかしそのイメージは、いつでも青い空に強く結びついている。受け手だけでなく、作品を送りだす側にも、そうしたイメージを積極的に打ち出していく意図もあっただろう。夏休みの期待の映画に、夏の青い空のイメージはまさにぴったりだ。
だからこそ『未来のミライ』の青い空のキービジュアルを見たときに、僕らはこれまでの細田守監督の数々の傑作『時をかける少女』から『バケモノの子』を想起する。その足は自然と映画館に向かうのだ。
■いつも未来に目を向ける細田守作品のキャラクターたち
ところが細田監督の長編映画をいま一度振り返ると、映画の舞台は必ずしも夏ではない。成長物語ではもちろん季節は巡るし、夏以外の印象的なシーンも多い。
たとえば『おおかみこどもの雨と雪』。タイトルも「雨」と「雪」だから、青い空とは真逆だ。本作の名シーンのひとつに、主人公の花が親子で雪の中で遊ぶシーンがある。季節は夏とは対照的な冬だ。『バケモノの子』では夜の渋谷の雑踏、『未来のミライ』の重要なエピソードの一篇は、雨の日。季節も天気も、実はとても多彩だ。
それでも多くの人が、「細田守の映画=青い空と夏」に結びつくのはなぜだろう? それは映像よりも、細田作品の持つ内面、それが響く心の部分の影響にあるのではないだろうか。
細田監督の作品は、どれもこれといった巨悪が登場するわけでない。それぞれの結末をここで話すわけにいかないが、全てが望みどおりにならずともどの作品もポジティブな未来を予感させ終わる。『時をかける少女』の真琴は千昭との別れを経験しても、功介に「やりたいことが決まった」と力強く答える。
僕はかつて細田監督にインタビューした際に、「ハッピーエンドや最後にさわやかな気持ちで終えるのは必然」と話されたことに、強い印象を受けたのを覚えている。細田監督の作品が、多くのファンから支持されるのは、まさにそのポジティブな未来を感じさせることにあるのでないか。映画を観ると、みんな元気になれる、明るい未来が信じられるのだ。
細田作品を象徴する「青い空」と「夏」は、実は単純な季節のことでなく、このポジティブな未来に向かっていくことなのではないのか。映画を観たときに感じる清々しさ、これからも少し頑張って生きていきたいと思わせる気持ち。それを示すのが、澄み切ったどこまでも続く青い空なのだ。だから僕たちは細田作品を観るたびに、いつも心の中にこの青い空が映っている。
そして新作公開とともに青い空のビジュアルが披露されたとき、またポジティブな気持ちと未来の可能性に出会えるかもしれない……と心が高鳴るのだ。
■この「夏」注目のイベント『未来のミライ展〜時を越える細田守の世界』
細田守監督の最新作『未来のミライ』公開に合わせ、「未来のミライ展~時を越える細田守の世界」が東京ドームシティGallery AaMoにて開催中。細田守監督が描く『未来のミライ』の世界を、体感型展示・テクノロジー・原画・背景画などを通じて立体的なイベントで再現される。
映画とは違う、イベントならではの表現で、子どもと大人が一緒に楽しめる空間──細田監督のアイデアを反映した“時を越える細田守の世界”では『時をかける少女(2006)』『サマーウォーズ(2009)』『おおかみこどもの雨と雪(2012)』『バケモノの子(2015)』といった過去作の展示も多数。『時をかける少女』の真琴をはじめとする細田作品のヒロイン像にフォーカスするほか、『未来のミライ』との関係性を紐解き、作品のさらなる魅力を知ることができる。この夏、くんちゃんとミライちゃんが見る“未来”を体験し、細田監督が描く不思議な世界へぜひ“タイムリープ”していただきたい。
未来のミライ展~時を越える細田守の世界
日程|2018年7月25日(水)~9月17日(月・祝)
時間|10:00~18:00(17:30最終入場)
場所|東京ドームシティ Gallery AaMo
住所|東京都文京区後楽1-3-61
入場無料・会期中無休
https://mirai-ten.jp/