東京都内に限った話かもしれないが、昨年秋に発表されたトヨタ自動車のジャパンタクシー(JPN TAXI)を見る機会が増えてきた。トヨタは発表時、東京五輪パラリンピックが開催される2020年に都内のタクシーの5分の1、具体的には1万台を新型に置き換えたいという希望を述べていたけれど、それ以上のペースで増備が進んでいるような感じを受ける。
筆者も2~3度ジャパンタクシーに乗ったことがある。乗り降りのしやすさなど、感心する部分はいくつかあるが、もっとも気に入っているのは色だ。日本の伝統色である深藍(こいあい)と呼ばれるシックなカラーに好感を抱いている。インターネットを見ても同様の感想を持つ人は多いようだ。
それまでの日本のタクシーと言えば対照的に、はっきりした原色の塗り分けが多かった。自分が見た海外のタクシーでは中国の上海、タイのバンコクなどが似た状況だったから、アジア独自の文化なのかもしれないが、都市景観面から考えればマイナスだと考えていた。
欧米は逆に、都市ごとにタクシーの色が決まっていることが多い。ニューヨークの黄色、ロンドンの黒は有名だ。個人的に印象的だったのはスペインのバルセロナで、車体が黒、ドアが黄色という出で立ちだった。かなり派手だけれど、南欧の強い陽射しが作り出すコントラスト、ガウディの前衛的な作品に合っていると思った。
欧米は他の公共交通車両も色を統一することが多い。 たとえばパリは地下鉄もLRT(路面電車)もバスも、車両はすべて白地にライトグリーンとブルーのストライプをまとっている。この面で好感を抱いたのはスイスのチューリッヒやオーストリアのウィーンで、市の旗の色に揃えてあった。
欧州でも統一していない都市はある。同じスイスのバーゼルでは、バーゼル・シュタット準州が運行する車両は緑、南側のバーゼル・ラント準州まで乗り入れる車両は黄色に赤のストライプという出で立ちだ。ただし戸惑ったこともあった。どちらでもない紫色の車両が入ってきたからだ。
日本の地方鉄道でも見かける広告ラッピング車両だった。紫はバーゼルの銀行のコーポレートカラーだった。チューリッヒのようにひとつの都市がひとつの色なら問題なかったけれど、色によって行き先が異なると、パッと見ただけではどちらへ向かう車両か分からず戸惑う。広告は一部にとどめ、シンボルカラーを生かしてほしかった。
一方の日本はラッピング車両でなくても、同じ車両がさまざまな色をまとっていたり、同じバス路線にさまざまな会社がさまざまな色で走ったりしていることが多い。カラーマネジメントという観点ではなんとかしてほしいと思っていた。
その点で好ましいのが、かつてこのコラムでも取り上げた栃木県宇都宮市・芳賀町のLRT計画だ。2022年3月の開業を目指し、5月28日に起工式が行われる予定で、それを前に20日から車両デザインアンケートが始まった。そこで候補に挙がっている3案すべてが黄色をシンボルカラーとしているのだ。
宇都宮周辺は昔から落雷が多かったことから雷都と呼ばれていた。雷というとネガティブなイメージを持つ方が多いかもしれないが、稲をはじめ植物の生育には窒素が重要であり、雷によって窒素と酸素が結び付いて窒素酸化物が作られ、その後の雨でこの窒素酸化物が地中にしみ込むことで育ちがよくなるという。つまり地域に由来する色というわけで、欧米の水準から見ても高い評価を与えられる。
会社レベルのコーポレートカラーでは阪急電鉄のマルーンをはじめ、伝統を継承した鉄道が多い。でも理想を言えば、ひとつの都市のモビリティをひとつの色で統一したほうが、人にとっても街にとっても好ましい。JPN TAXIや宇都宮市・芳賀町LRTのようなカラーマネジメントが増えていくことを期待したい。