
「小さそうに見えない?」見た目ばかり気にする妻
「うちの妻は基本的にはまじめで、いい人なんですよ。ただ、まじめ過ぎて、自分の軸をもっていないのが気になりますね。特に他人の目を気にして自分の気持ちを素直に言えないのが、あまりにも生きづらそうだと思うようになりました」タカトシさん(43歳)は静かな口調でそう言った。結婚して10年、一人娘は8歳となった。数カ月前、その娘の洋服をめぐって妻と意見が違うなあと思ったばかりだという。
「なんてことない普通のTシャツなんですが、久しぶりに着たのか、妻は『小さくない?』と娘に聞いている。娘はちょうどいい、と。妻はやたらと大きいのを着せたがるんです。体のラインが出ないものがいいからと。それも分かるけど、大きいと動きづらいと娘は言う。だからそのTシャツは気に入っているみたいでした。
すると妻が僕に『小さそうに見えない?』って。いや、本人がちょうどいいと言ってるんだからいいんじゃないのと言いましたが、彼女の基準は人から小さそうに見えるかどうかなのかと気付いたんです」
それから妻の様子を観察していると、妻は自分の服を決めるときもメイクをしたあとも、「どうかな。若作りしてると思われるかな」と気にしていることが分かった。それまであまり気に留めなかった妻の言動が、妙にひっかかるようになったのはそれからだ。
「共働きなので、食材は週末、スーパーでまとめ買いをすることが多いんですが、先日、たまたま近所のママ友に会ったんです。すると妻はさっとかごに自分のバッグを放り込んだ。何をしているのかと思ったら『だって何を買っていたか知られたら、何言われるか分からないもの』と。
そんなにママ友たちとの関係が悪いのかと心配したら、みんなとは仲がいいって。でも何か言われるんじゃないかと思い込んでいるわけです」
友人夫婦と外食したときも
家の中で、妻は実にのびのびしているという。夫の目は気にする必要がないからだ。ただ、一歩外に出ると、必要以上に近所の人に気を使い、自分がどう見られるかに神経を配る。たまたまタカトシさんの友人一家と外食をしたときも、自分が食べたいものはいっさい主張しなかった。「台湾料理のお店に行って、みんなでシェアしようということになったんです。先方の子どもも混ぜて7人。友人の妻も子どもたちも、『私はこれが食べたい』とはっきり言うんですが、妻は何も言わない。娘がメニューをのぞき込んでいたら、『いいの。パパに任せましょ』って。友人夫婦は変な顔をしていました。
まるで僕が抑えつけて何も言わせないみたいじゃないですか。自分が食べたいものくらい自分で選びなよと言ってみても、妻は何でもいいのと。そういうのは楽しくないからやめなよと小声で言ったら、だって本当に何でもいいんだものって。まるで友人一家との食事を楽しみにしていなかったみたいで……。場の雰囲気が妙な感じになりました」
友人が「おまえが代表して3品頼め」と笑いながら言ってくれて、なんとか場はおさまった。「うちなんてオレの好きなものを選ばせてくれないんだから」と友人は追い打ちをかけ、友人の妻は大笑いしていたという。
殊勝な妻を演じながら
「そうやって外では夫を立てる妻を演じながら、家で自己主張が強いのが彼女なんです」とタカトシさんは言う。「今どき、夫を立てるなんていうのはかっこ悪いじゃないですか。家にいるときは威勢がいいことを言って僕をなじったりからかったりすることもあるのに、外では急にしとやかな妻になっているのは、なんとも気持ちが悪い。娘も『ママは、外だと違う人みたい』と言っています。ああいう大人になってはいけないと、近い将来、伝えたいです」
とはいえ、そういう妻とうまくやっていかなければならないのが日常生活だ。妻自身、家と外とで態度が違うこと、他人の目ばかり気にして自分の軸がないことに関してまったく自覚がないので、「もっと気楽に外でも自己主張すればいい」と言っても効果はない。
「私はこうやって生きてきたの、何がいけないのと泣かれたこともありました。別に僕は彼女を変えたいわけではない。ただ、もう少しごく普通に自分を出せばいいのになと思うんです」
妻が変わりたいと思えば協力するつもりだが
妻の両親は典型的な「昭和の夫婦」で、妻は夫の言うなりだった。反論しようものなら時には殴られたこともあったそうだ。そんな両親を見ていたから、妻の心の底には「男性」への嫌悪感があるのかもしれない。「それを払拭(ふっしょく)してあげられればいいんだけど、そのためには妻が自分の心の傷や闇を話してくれないと前には進めないと思うんです。正直言って、僕はそこまで妻を背負いきれる自信がない。人を変えるなんておこがましいですからね……。妻が自分から変わりたいと思えば協力は惜しまないつもりなんですが」
今のところは、娘に悪影響が出ないよう見守り続けるしかないような気がすると、タカトシさんは力なく言った。
