
経済ジャーナリスト・荻原博子さんの著書『定年後のお金の悩み、解決します』では、定年後に「年金+α」のお金で暮らすための資産の守り方や活かし方、健康寿命を延ばしてお金を賢く使う生活術をわかりやすく解説しています。
今回は本書より一部を抜粋し、定年後の地方・海外移住で後悔しないために、「移住先の選び方」や住まいについて考えておきたいポイントをご紹介します。
憧れで「縁もゆかりもない土地」を選ぶのは危険
ある程度の年齢になると、都会を離れて地方へ移住したいと考えることもあるでしょう。忙しい毎日から離れ、自然の多い場所で暮らしたいと思う気持ちはよくわかります。ただし、この計画を立てる時に何よりも大切なのは、夫婦でしっかりと話し合い、お互いの気持ちを一致させておくことです。どちらかが無理をしている状態では、せっかく移住しても、最悪、別々に暮らすことになりかねません。まず、夫婦ともに移住を望んでいることが大前提となります。
行き先として最も理想的なのは、妻の実家の近くに住むという選択です。夫から見ればマスオさんに近い状態になりますが、これには多くのメリットがあります。
まず、妻の両親が健在なら、すでに地域にいいネットワークができあがっていて、その人間関係をそのまま活かすことができます。さらに、一般的に娘の夫という立場は、義理の両親や周りの人から大切にしてもらえるものです。「お嫁さん」に対する厳しい目とは大いに違います。
妻にとっても、住み慣れた実家のそばであれば心強く、不満もたまりにくいため、夫婦で穏やかに過ごせることでしょう。
地方移住というと、風光明媚なところとか、静かな避暑地というイメージがあると思いますが、それはまず避けた方がいいでしょう。
夫婦2人だけで縁もゆかりもない新しい土地に移り住み、人間関係を自分たちだけで築くのは、想像以上に大変なことです。その土地の決まりごとや、人との付き合い方をすべて自分たちで一から学ばなければなりません。
もし本当に地方移住を考えているのなら、できるだけ早い時期に動き始めることも重要です。年をとるにつれて、新しい環境に馴染むこと自体が難しくなりますし、周りの人も声をかけづらくなるものです。
いつでも帰れる家を残しておく
移住を考える際、一番やってはいけないのは、今住んでいる家を売って、そのお金を資金にして全く知らない場所へ移り住むことです。例えば、家を売ったお金でハワイに移住するという計画を立てる人もいますが、私はそうした選択をして苦しむ人を何人も見てきました。
言葉が通じず、現地のコミュニティにも馴染めないまま、ノイローゼのような状態になってしまうのです。けれど、いざ日本に帰ろうと思っても、すでに家を売ってしまっているため、帰る場所がありません。
そんな中でも、妻は新しい友人を作ったり、人間関係を広げたりして、生き生きと過ごすこともあります。すると、新しい環境に馴染めない夫が一人、寂しくつらい思いをすることも。
ですから、どのような場合でも、日本の家は売らずに残しておいた方がいいでしょう。帰る場所さえ確保しておけば、もし移住先が合わなかったとしてもやり直しがききます。新しい生活に心から馴染み、ずっとここで暮らしていこうと確信が持てた時に、初めて家を売ることを考えればよいのです。
たとえ家を売ったとしても、最悪、日本に戻って生活できる分のお金は見込んでおくべきです。もちろん、ハワイに限らずどんな海外の地域でも同様です。
もっとも、仕事の都合などで海外生活が長かったという人は別です。そのような人は言葉にも不自由はないし、どこに行っても溶け込めるような技術を持っているでしょう。
けれども、海外経験が少なく、言葉に不安がある人に対しても「海外に行っても大丈夫」「日本人コミュニティがあって安心」などといって気軽に移住をすすめる仲介会社もあります。確かに行ってみたら日本人は多いけれども、皆、言葉の不安もなくて海外生活に慣れている人ばかりだった、ということもあるのです。
著者:荻原 博子(経済ジャーナリスト)
1954年、長野県生まれ。明治大学文学部卒業。家計経済のパイオニアとして活躍。著書に『年金だけでも暮らせます』(PHP新書)『投資なんか、おやめなさい』(新潮新書)など。
